[携帯モード] [URL送信]

今日も変わらず地球は回る
帰宅



修学旅行の荷物を片付け、着替えてマンションを出ると、空は綺麗な茜色に染まっていた。
駅から電車に乗り東京方面へ向かい、そして降りた駅前には迎えの車が来ていた。

後部座席のドアを開けてくれたのはうちのお抱え運転手で、久しぶりに会った彼がニコリと微笑んだ。
静かに車を発進させると直ぐに話し掛けてきた。

「お帰りなさいませ、彩音お嬢様」
「ただいま。久しぶりね」
「はい。……お嬢様、変わられましたね」

ミラー越しに私を見て、彼は目を細めた。それは嬉しそうに。
家にも沢山迷惑掛けたり心配させたりしていたのを、今更ながら思い出した。
思わず申し訳なくて眉を下げると、彼は「よろしいのですよ。お嬢様の心配をするのは私どもの仕事ですから」とまた笑った。

「…ありがとう」
「それで結構でございます」

そうして彼は運転に集中した。

少しして門をくぐった車は、そこから2分程で玄関前に到着した。
ドアが開き地面に足を着け車から降り、玄関に向き合う。
私の家は、景吾くんの家とは真逆の純和風建築。相変わらず綺麗に手入れされている庭園と家全体を見渡して、私は大きく息を吸った。
少し帰ってなかっただけなのに、懐かしい空気を感じた。

玄関を入ると、使用人が数人出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま、みんな」

笑って答えると、皆は一瞬だけ目を丸くして、それからさっきの運転手のように嬉しそうに微笑んだ。

「色々と心配掛けてごめんなさい」
「そのようなこと!当たり前でございます」
「フフッ、ありがとう」

自室に行って鞄を置いて、私がいない間も綺麗にしておいてくれたことに感謝しつつ、両親のいる居間に向かった。

「ただいま」
「お帰り彩音」
「お帰りなさい」

寛ぐ両親の前のソファに私も座り、買ってきたお土産を差し出した。
定番ですが、八ツ橋です。

「修学旅行のお土産だよ。一緒に食べて話したくて、定番だけどこれにした」
「じゃあお茶を点てましょうか」
「あ、私にやらせて」
「まあ、じゃあお点前お願いね」
「うん!」

私は八ツ橋を持って給湯室へ向かった。
うちは調理場の他に給湯専用の場所もある。今は多分、夕餉を作っている真っ最中だろうし、邪魔しちゃ悪いもんね。

お皿に八ツ橋を見目好く並べ、お茶を点てる。部活休みに少し自主的にお稽古はしてたけど、久しぶりに変わりない。
美味しく点てれていればいいな。

お盆にお茶とお菓子を乗せ再び居間に戻り、お父さんとお母さんの前に置く。
私はじっと二人の様子を伺った。二人共、お茶には意外とうるさいのだ。

「そんなに見られたら恥ずかしいわ!……うん、美味しいわよ」
「ほんと?良かった!じゃあ私も」

お母さんが美味しいと言ってくれたなら合格ね。
飲んだお茶は、確かに上手く出来たと思う。



両親がマンションに来ることは割とあったんだけど、泊まっていくことは少なくて、私も、マネージャーを初めてからは忙しくてすれ違う日々が続いていたから……この時間がすごく嬉しい。

修学旅行でお祖母様とジュリオに会った話をしたら、あの日、こっちに来たことを話された。
なんだ…ジュリオってば、メールくらいしてくれればよかったのに。

「思い立ったら行動するのは相変わらずね」

お母さんは苦笑しながら八ツ橋をぱくりと食べた。
けれど次の瞬間、何かを考えるようにほんの一瞬真面目な表情になって。

「あのね彩音…」
「ん?」
「……ううん、何でもないわ」
「?うん…」

変なお母さんだなぁ。
お母さんはちらっとお父さんと視線を交わし眉を下げていたけど、私は特に気にすることもなく、残りのお茶を飲み干した。



夕食もお風呂もおやすみの挨拶も済ませ、部屋のベッドに寝転んで天井を見つめていた。

あの後のお母さんはいつもと変わらない様子だったし、やっぱり気にすることでもなかったのかな。
もし話があるならそのうち話してくれるだろうし。

ああ……雅治に会いたいなぁ。

「さっきまでずっと一緒にいたのにね…」

少し離れてるだけでこんな気持ちになるなんて、ホント、重症だよ。

明日は早めに帰ろう。

そう決めて、私は眠りに落ちていった。



(090821)

[*←][→#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!