その他の短編小説 B 俺はちょっとばつが悪くなって、 「あ、そう」 それだけ言い、わざと乱暴に紙幣をポケットに戻した。 シンは黙ってうなずくと、荷物を持って先に歩き出した。 翌日はジープでの草原の大移動。 水やら食料やらテントやら、とにかく詰め込めるだけの荷物を詰め込んで、野生の象に出会えそうなポイントに移動する。 正直俺は、象なんてすぐに見つかると思っていた。 絶対に人間より野生動物のほうが多いだろうと思われるこの国で、しかもあんな図体のデカイ動物なんだから簡単に見つかる。そう思い込んでいた。 「気長に構えてくださいよ」 気の逸る俺をなだめるように言うシンを、俺は鼻で笑い飛ばした。 「さっさとお目当ての写真を撮って、この埃っぽい草原ともおさらばさ」 だが、果たしてシンの忠告は本当だった。 待てども待てども野性の象は現れなかった。 結局象どころか野ねずみの一匹も見ることができずに、一日目は夕暮れを迎えた。 次の日もその付近で象を待ったが、やはり足跡ひとつ見つけることは出来なかった。 三日目は少し離れた場所に移動して、そこでテントを張る。じりじりと照りつける太陽に俺は何度か悪態をついたが、シンはただ黙々と作業を続けた。 「君はずいぶん勤勉なんだね」 そう言った俺の声は少し嫌味っぽかったろうか。 「キンベン?」 不思議そうに俺を見つめるシンに、俺は笑いながら言った。 「まじめでよく働くということだよ」 するとシンは作業する手を止めて、俺に頭を下げた。 「ありがとうございます」 俺はちょっとだけしらけた気分になった。そんなに素直にとられてもなぁ……。 その日カメラに収められたのは、前日までとほとんど変わらない風景写真と、よく分からない小動物の後ろ姿だけだった。 (本当に象なんているのかよ?) 俺はかなり焦っていた。 [前へ][次へ] [戻る] |