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C
 そして四日目。
 今日こそは何か手応えのあるものを撮りたい――と言うより、今日こそは何か撮れなければ、いい加減この国にいることに飽きてしまう。
 そんな俺の不満を感じたのか、シンがこんな提案をした。
 「ここにテントを張ったまま、夕暮れまで車を走らせましょう」
 俺に異論があるわけはない。


 草原の中をとにかく走った。
 何もない乾いた草原をジープが走り抜けると、土埃りが舞い、空気を赤く染めていく。
 暑さと埃っぽさに顔をしかめながら、俺は車外へ向けてカメラを向け続ける。象が現れたら何としてでも撮らねば……。

 昼過ぎに食事を兼ねての短い休憩をとると、またすぐに車を走らせた。
 シンはまったく疲れを見せず、相変わらず黙々と車を運転している。
 俺はそんな彼の横顔を時々ちらちらと眺めながら、それでも根気よくファインダーを覗き続けた。シャッターチャンスはいつ訪れるか分からない。

 その時だった。
 シンが急に車を止めた。
 体が大きくガクンと前に傾いて、俺はあやうくカメラを落としそうになった。
 「おい――」
 文句を言いかけた俺に、シンは落ち着いた声で前方を指差した。
 「見てください、あそこ」
 シンの指差す方向を見る。かなり遠くに大きな塊が見えた。

 象だ。
 あの大きさ、間違いない。
 やっと見つけた!

 「は、早く行ってくれ。象が逃げてしまう」
 興奮して言う俺に、シンは至極落ち着き払った声でこたえる。
 「いいえ。その心配はないですよ」


 象に近づくと、シンの言っていた言葉の意味が分かった。
 草原のススキみたいな草と草の間に横たわり、その象は――死んでいたのだ。

 大きな体をぐたっと大地に押し付け、もの言わぬ物体になった象。死んでから幾日も経っているのか、目は完全に空洞と化し、無数の蝿がたかっている。
 その体から発せられる腐臭に、俺は思わず顔を背けた。暑さと臭いに吐き気がこみ上げてくる。

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