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「康介、なんだかやつれてない?」
冗談めかして言うと、康介はぎこちなく笑った。
「君は元気そうだね」
「ええ。仕事も楽しいし、毎日がとても充実してるわ」
そう言った言葉は本心からのものだった。
康介と別れてから、失恋の痛手を忘れるために、私は仕事に打ち込むことにした。
そうしてみると自分が案外仕事に向いていることに気がついた。
私は積極的に新しい仕事を覚え、みんなが嫌がる残業も進んで引き受けた。それが少しずつ上司や周りにも認められるようになった。
そのおかげで、今では新プロジェクトの責任者として、一つのグループを任されている。
康介と付き合っていた頃、「結婚したら仕事なんかすぐやめる」と言っていた私が……。
人間って思いがけないことがきっかけで自分の適性に気づくものなのかもしれない。
そんなことを考えて思わず笑ってしまう。
「何?どうしたの?」
「ううん、何でもない」
肩を竦める私に向かって康介が言う。
「なんだか、君、変わったね」
「そう?」
康介の言葉に、私は余裕の笑みを向ける。
「うん。髪も短くなって、服装や化粧も前とは違う。――いや、それだけじゃないな。なんて言うか、自信に溢れている感じがするよ」
眩しいものでも見るように目を細めながら、康介がじっと私を見つめる。
「綺麗になったよ。あの頃より、ずっと……」
囁くように言った康介の瞳の中に、かすかに何かが浮かんだ。
康介と恋をしていた時、彼はよくこんな目で私を見ていたっけ。
それすら純粋に懐かしく思う。そんな自分に少しだけ驚く。
康介の言葉通り、やっぱり私は変わったのだと改めて自覚する。
私はにっこり微笑みながら康介を見つめ返した。
「ありがとう」
「……」
康介の頬が一瞬赤く染まったように見えたのは、きっと私の見間違いなんかじゃないだろう。
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