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D
「う……うっ……」
いっそのこと涙と一緒に全部流れていって欲しい。
何もかも忘れてしまいたい。
私の中で嵐のように渦巻く怒りも嫉妬も。彼との楽しい思い出も、彼女との友情も。
みんなみんな消えてしまえ――。
こうして私の恋は唐突に終わりを告げた。
数か月後。
高校時代の友人から、私は千佳子が康介と結婚したことを知らされた。
何も知らないその女友達は、少し困ったような顔で私に言った。
「千佳子の一番の親友なのに、結婚式で咲希の姿を見かけなかったからびっくりしたわよ。ひょっとして喧嘩でもした?」
何と言っていいか分からず、私は曖昧に首を振る。
「そういうわけじゃないの。ただ、ほかにどうしても外せない用があって」
苦し紛れについた嘘を、女友達は簡単に信じてくれる。それがせめてもの救いだった。
「そう?それならいいんだけど」
「うん。心配させてごめんね」
本当のことなど言えるわけがない。
キリキリと痛む胸を押さえながら、私は必死で笑顔を作った。
そして、さらに数年後。
私は街で偶然に康介とすれ違った。
「久しぶり」
笑顔でそう言うと、康介はばつが悪そうに顔を伏せた。
私は気がつかないふりをして、にっこりと笑って見せた。
「お茶でもどう?」
「あ、うん。そうだね」
「時間ない?」
「そういうわけじゃ……」
「じゃ、行こう」
おどおどと煮え切らない康介の手を、私はなかば強引に引っ張った。
喫茶店で向かい合わせに座った康介のことを、私はしみじみ観察する。
会社帰りなのだろう。紺色のスーツを着た康介は、あの頃よりずいぶん落ち着いたように見える。
よく見れば髪にちらほらと白いものが混じっているせいだろうか。付き合っていた頃の溌溂としたやんちゃ坊主のような面影はもうどこにもない。
それだけの時間が流れたということだろうか。
あれからまだ五年も経っていないというのに、とても懐かしく感じられた。
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