[携帯モード] [URL送信]

万華鏡
E
 
 彼が親友の消息を知ったのは、それから二週間ほど後のことだった。
 珍しく電報を受け取った彼は、差出人の名前と内容を見て首を捻った。
 「何々?『シキュウ レンラク コウ セキグチ』――何だこりゃ?」
 不審に思いながらも、とりあえず電話をかけることにする。
 まだ一般家庭には電話が普及していないので、少し面倒でも川を越えたところにある駅まで行くしかないだろう。
 「あら、先生、お出かけですか?」
 家を出ようとしたところで、通いのお手伝いをやってくれている山村雪枝(やまむらゆきえ)とすれ違う。
 雪枝は買い物から戻って来たところで、手にぶら下げたかごの中から野菜やら魚やらが飛び出している。今夜はずいぶんご馳走らしい。
 「ちょっと駅まで電話をかけに行ってきます」
 「あら、電話なら本家で借りたほうが早いですよ」
 「本家?」
 雪枝の言葉に彼は首を傾げる。
 何分彼はここに越してきてまだ日が浅い。雪枝の言う『本家』とやらが何を指すのか分からないのだった。
 雪枝もそのことにすぐに気付いたのか、申し訳なさそうに苦笑しながら数軒先にある大きな家を指さした。
 「本家っていうのは、あそこです。ほら、犬塚(いぬつか)のご隠居さんのお宅ですよ」
 「ああ、あのご老体の……」
 頷きながら、囲碁仲間の老人の顔を思い浮かべる。
 なるほど確かに川向こうの駅へ行くよりは、顔見知りの近所の老人に電話を借りたほうが早いに違いない。

 彼が犬塚家を訪ねてわけを話すと、老人は快く彼を家へ招き入れた。
 「今度から、電話を使いたいときは遠慮なく訪ねておいでなさい」
 そう言ってくれる老人に頭を下げ、関口の勤める新聞社に電話をかける。
 運よく関口はすぐに捕まった。
 「相模か?」
 「ああ。久しぶりだな。どうした?電報を寄越すなんて」
 のんびりと尋ねる彼に、関口は電話向こうから緊迫した声で問いかける。
 「お前、やっぱりまだ聞いてないんだな?」
 「何を?」
 おっとりと聞き返した彼の耳に、電話の向こうで関口がひゅっと息を呑むのが聞こえてきた。
 「岩谷が―――」
 


[前へ][次へ]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!