旅人シリーズ G 小鳥は僕の膝の上にうずくまりながら、時々首を動かして辺りの様子を伺っている。まるで何かを探すように。 「もしかして、飼い主を探しているのかい?」 ふと思いついたように尋ねると、小鳥ははっきりとした意志を持った瞳で、じっと僕を見つめてきた。 「そうか。そうだったのか」 僕は笑った。 それなら話は早い。一刻も早くこの小鳥の飼い主を見つけ出して、小鳥を家に帰してやろう。 「さて。どうやって君の飼い主を見つけようか?」 陽気な声でそう問いかけると、突然小鳥が甲高い鳴き声を上げた。 「ピルルル……」 美しい歌声は、細く高く天まで昇っていくようだった。 そのあまりにも澄んだ音色に、目を閉じてうっとりと聞き惚れる。これほど美しい声を、今まで一度だって聞いたことはない。 そのまましばらく小鳥の歌を聴いていたが、 「天上の音楽って、こういうのを言うのかな」 そんな感想を述べながら、僕はゆっくりと目を開けた。 すると目の前に、背の高い男が一人立っていた。 「世話をかけたようだ」 低い声に顔を上げると、深い漆黒の瞳がじっと僕のことを見下ろしていた。 「――」 男と目が合うと、僕は思わず息を呑んだ。 その紳士的な優しい風貌とは裏腹に、男の瞳も男の全身から漂う気も尋常ならざるものだった。それはとても普通の人間のものとは思えず、まさに闇そのもの、或いは夜の気配そのものとでも言うべきか。 (人間じゃない?) そんなことをつい本気で考えてしまう。 男の放つ気に呑まれそうになりながら、僕は全身を強ばらせた。 男はそんな僕をじろりと一瞥すると、膝の上にいる小鳥に手を伸ばした。 「やめろ――!」 思わずそう叫んだが、男はまったく動じない。 両手で小鳥を掴むと、小さな頭にそっと唇を寄せた。 「ご苦労だったな、カルキス」 その瞬間、僕の目ははっきりと見た。 薄藍色の小さなローラーカナリアが大きく翼を広げ、深い闇色の『夜の鳥』へ変身していく姿を――。 [前へ][次へ] [戻る] |