オリーブの木の下で
A
「仕方ないじゃない、ココのためなんだから。それとも、もうお庭に出るのやめる?外にも出ないし誰とも遊ばないって言うなら、予防接種なんか必要ないかもね」
「……」
莉子の言葉に、思わず黙り込む。
莉子の意地悪。そんなこと出来るわけないじゃない。
確かに私はほぼ完璧なインドア・キャット(自由に外を出歩かず、室内での生活を送る猫のこと)だけど、お天気の良い日にお庭でする日向ぼっこは大好きなんだから。
それに、近所に住むフェレットの桃太郎や金太郎が訪ねて来てくれるのも、水沢(みずさわ)先生と一緒に犬の空(そら)が遊びに来てくれるのも、私にとってはすごく嬉しい。
それから、ごくたまにだけど、我が家のお庭にやって来る野良猫たちや、お散歩中のご近所の犬たち、家の前を通りかかる雉や狸なんかとお話しするのも本当に楽しい。
それをやめるだなんて絶対にイヤ!
「ヤダ。外にも出るし、みんなとも遊ぶ」
私は鼻息を荒くしながら莉子を睨み上げる。
莉子はチラリと私に視線を向けると、人の悪い笑みを浮かべた。
「じゃあ、仕方ないわね。あきらめなさい」
そう言って、また前を向いてしまう。
「……鬼、悪魔、人でなし」
私は莉子に聞こえないくらい小さな声で呻く。
そして、せめてもの抵抗とばかりに、助手席の下に潜り込んだ。
本日のメインイベント会場である水沢動物病院に着くと、莉子は慣れた様子で駐車場の一番奥のスペースに車を停める。
ここが私たちの車の定位置。後から来る人が駐車しやすいように、どんなにがら空きでも、きちんと端から停めるように心がけている。
「さて。じゃあ、行きますか」
私を抱き上げようと莉子が両手を伸ばしてくる。
私は観念して大人しく莉子に抱かれながら、それでもつい情けない声で尋ねてしまう。
「やっぱり行くの?」
「当然でしょ」
あ、駄目だ。莉子ったらちっとも聞く耳を持ってくれない。
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