オリーブの木の下で @ 言葉なんて要らないの。 ただひとつだけ、あなたに伝えられたらいい。 たったひとつ。 私の願いはひとつだけ。 神様、お願いです。 私の大切なあの人に伝えてください。 「私ハ、アナタガ、大好キデス」 【オリーブの木の下で】 〜 インコのキマちゃんのお話 〜 「……ふぅ」 毛足の短い車内用マットに寝そべりながら、私は何回目かの盛大なため息をついた。 それに気づいているのかいないのか、莉子(りこ)は暢気に鼻歌なんか歌いながら車のハンドルを握っている。 まったくいい気なものよね。人の気も知らないで。 「嫌ね。少しでも湖子(ココ)の気が紛れればいいな、と思っているんじゃない。ココ、この曲好きでしょう?」 ふいに降って来た莉子の声に、驚いて顔を上げる。 ありゃ。私ったら、知らないうちに思ったことを口に出しちゃってたみたい。 こういう時は、莉子と私の言葉が通じることが、ちょっとだけ恨めしい。普通の猫なら、すべて「ニャーニャー」で誤魔化せるんだもん。でも私たちはそうはいかない。 私――白猫のココと、私の唯一の家族である人間の莉子は、ひょんなことからお互いの言葉を理解できるようになった。 ちなみに言葉が通じるのは私と莉子の間だけ。だから、ほかの人たちには、私たちが会話してるなんて知らないの。便利なんだか不便なんだかいまいちよく分からない。 「そうは言ったって、憂鬱なのは変わらないわよ。だってさ……」 私はついつい口を尖らせる。 だって今日は、年に一度の予防接種の日なんだもん。 誰だって注射されて嬉しいなんて人はいないでしょ。それは猫だって犬だって同じこと。あの針の刺さる瞬間のチクリとした感触が何とも言えず嫌なのよね。 [次へ] [戻る] |