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オリーブの木の下で
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 やがてお姉さんは思いついたようにつぶやいた。
 「湖子(ココ)――」
 私の耳がピクピクッと反応する。
 ココ……不思議に心地よい響き。
 「湖子?」
 「ミニャー」
 思わず返事をすると、お姉さんが笑った。

 それからお姉さんは嬉しそうに私の頭や背中を撫でると、飽きることなく私の名前を呼び続けた。
 「湖子。今日からあなたの名前は湖子だよ。よろしくね、湖子」
 「ゥミー」
 「湖子、きっと幸せになろうね。湖子のママにも約束したんだもん。かならず湖子を幸せにするって」
 「ンニャ」
 「それに、お星さまになってしまった湖子の兄弟の分まで、湖子は幸せにならなくちゃ。仔猫五匹分、いっぱいいっぱい幸せになろうね」
 「ミャウ」


 今思い返せば、この時の私とお姉さん――莉子(りこ)の出会いが、そもそものはじまりだったのだ。
 いや、もしかしたらその前から『何か』は始まっていたのかもしれない。私も莉子もまったく知らないところで、しなやかな優しい手によって、私たちは結びつけられたのかも知れない。

 けれど、私と莉子の物語はここから始まった。
 これから起こる、優しくて、悲しくて、切なくて……ちょっとだけ不思議な出来事の。まさしくすべてのはじまりの日だった。
 私と莉子は、これからたくさんの動物やたくさんの人たちと出会うことになる。そして、二人で数え切れないほどたくさんの経験をしていくことになる。

 私と莉子。親子のように、姉妹のように、かけがえのないパートナーのように。私たちはいつも一緒に、笑ったり、泣いたり、怒ったり。
 でも、この時はまだ、私も莉子もそんなことちっとも気がついてなかった。二人とも何も考えていなかった。
 そう。まさか出会いから二か月も経たないうちに、あんな信じられない事件が起きるなんて―――。

 でも、まあ、それはまた別のお話。





《おしまい…?》

 


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