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オリーブの木の下で
C
 「ほら。あんたの欲しがってた白い仔猫だよ」
 おじさんはそう言いながら、私を別の誰かの手に渡した。
 おじさんの手とは違う、細くて柔らかな手。両手で大切そうに私を包んで、しっかりと抱き締めてくれる。
 でも、そんなことしてもらっても、私の不安はちっとも消えない。
 「ママ!ママ、どこ?!」
 私が必死に呼びかけると、
 「チビ」
 下のほうからママの声がした。そして、私を包んでいた手がゆっくりと下りて行くのが分かった。

 「ママ、ママ!」
 「大丈夫よ、チビ。泣かないで」
 ママは私を宥めるように、ぺろぺろと私のおでこを舐める。
 私はママのほうへ体をよじった。そんな私の動きを助けるように、私を包む両手がママのほうへと動く。
 「チビ、可愛がってもらうのよ」
 ママはそう言うと、私の体ごと私を包んでいる両手にすりすりと体をこすりつけた。
 「どうか、チビのことをよろしくお願いしますね」
 ママがそう言っているのが聞こえた。
 ねえ、ママ。誰に言ってるの?何を言ってるの?
 「かならず……かならず幸せにしますから。この子は、私が大切に育てます」
 手の主はママに向かってそう言う。それは、さっき聞こえてきた女の人の声だった。

 それから後は何がなんだか分からない。
 私は柔らかなタオルにくるまれて、バスケットの中に入れられてしまった。
 「ママ!助けて、ママ!!」
 そう叫ぶのだけれど、もうママの声は聞こえなかった。
 バスケットの隙間から何とか外の様子を伺おうとしたけれど、まだ完全に目の見えていない私にはまったく状況が理解できなかった。
 「ママ!ママー!」
 力の限りミーミー鳴いている私に、女の人の困ったような声がする。
 「チビちゃん、そんなに鳴かないで。すぐにお家に着くからね」
 けれどそんなことはおかまいなしに、私はただひたすら鳴き続けた。
 「ママ、どこに行ったの?ここから出して、ママ……」
 結局私はさんざん泣き喚いて、いつのまにか疲れて眠ってしまったらしい。



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あきゅろす。
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