オリーブの木の下で
E
カイト。
ああ、そうか。それがあの黒猫の名前なんだね。
「ニャアァー……」
ごめんなさい。ごめんなさい、莉子。
莉子の大切なものを、私、壊しちゃった。
莉子があんなに大切にしていたカイトとの思い出を、私がこんなにしちゃった。
ごめんなさい、莉子。
謝っても許してもらえないと思うけれど、私、莉子にちゃんと『ごめんなさい』って言いたいよ。
「ミニャア……」
私は泣きたいような気持ちで声を上げた。何としても莉子に『ごめんなさい』と伝えたかった。
「ニャオーン」
懸命に声を出す私の目の前に、何かがふわりふわりと漂い落ちてきた。
「なんだろう?」と考えているうちに、それは左右に揺れながら、あろうことか大きく開けた私の口の中にすっと入り込んできた。
「ンニャッ?!」
驚いた私は、それを思い切り飲み込んでしまった。
そして飲み込む瞬間に、私はそれが何だか理解した。それは莉子が大切にしていたあの白い羽だった。
「ココ、どうしたの?大丈夫?!」
私が妙な声を出したので、莉子が心配そうに私の顔を覗き込む。
どうしよう。羽を飲み込んじゃったなんて、怖くてとても莉子には言えない。でも、このまま黙っているわけにもいかない……よね。
私は硬直したまま莉子の顔をしげしげと見つめた。
莉子もそんな私をじっと見つめている。
私は覚悟を決めて口を開いた。
「ごめん。莉子の大切にしていた羽、私が飲んじゃった」
「え――?!」
ぎょっとしたように、莉子が大きく目を見開く。
そうだよね。当たり前だよね。めちゃくちゃ怒ってるよね。
私はすっかりあきらめてため息をついた。
けれど、莉子の反応は、私が予想していたものとは違っていた。
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