オリーブの木の下で D それからしばらくした頃、思いがけないことが起こった。 私が何気なく莉子の部屋に入っていくと、例の飾り棚の扉がほんの少しだけ開いていたのだ。 私は高鳴る胸を押さえながら、そっと飾り棚に近寄った。そして、扉の透き間に爪をひっかけると力を込めて引っ張った。 扉はうまく開いた。 私は上半身を起こすと、思いっきり背伸びをして一番上の棚を覗き込んだ。 「あった!」 私は嬉しくなって、身を乗り出して棚の中を覗いた。両手を手前に置いて、棚の中にぐっと頭を突っ込んだのだ。 その結果、私の両足が床から離れ、私はバランスを崩してしまった。倒れそうになった私は思わず手を伸ばし、目の前にあったものに爪を立ててしまった。――つまり、莉子が大切にしていたものに。 ガラガラガシャーン! ものすごい音がした。 「どうしよう」 写真立てのガラスが割れ、フローリングの床の上に散乱している。首輪はとんでもない方向に飛んでいってしまい、羽はどこにいったのか分からない。 「どうしよう……」 私が途方に暮れていると、ものすごい勢いで階段を上ってくる足音が聞こえた。 「ココ、いったい何があったの?」 ああ、どうしよう。莉子に怒られる。 「――?!」 血相を変えて部屋に飛び込んできた莉子は、その惨状を見て顔面蒼白になってしまった。 私が莉子に怒られるのはもう決定的だった。莉子の大切にしていたものをこんなにしてしまったんだもの。一発ぐらい殴られても仕方ない。私はそう覚悟を決めた。 だが、私の予想に反して、莉子は私を怒鳴ることも殴ることもしなかった。力が抜けたようにその場に座り込むと、写真立てを手に取り、それからキョロキョロと辺りを見回した。 莉子が何を探しているかはすぐ分かった。 あの首輪と白い羽だ。 「ニャアー」 私は首輪のほうを向いて鳴いた。 莉子は這うようにして首輪を拾い上げると、それを胸の前でぎゅっと抱き締めた。 「海斗(カイト)――」 [前へ][次へ] [戻る] |