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オリーブの木の下で
C
 ふわり。
 それは柔らかな速度でゆっくりと床に落ちてきた。
 「何、これ?」
 私はその白いものを思わず爪先でつつこうとした。その途端、
 「ココ、駄目!」
 莉子が今までに聞いたこともないような厳しい声で言い、私の目の前からその白いものを慌てて拾い上げた。そして、飾り棚の一番上に仕舞い込むと、しっかりと扉を閉めてしまった。

 「ニャーニャー」
 ねえ、今のは何?真っ白でふわふわでとても綺麗だったよ。
 私はそう莉子に尋ねた。しかし莉子は、そんな私を見て少しだけ顔をしかめた。
 「ココもやっぱり猫なんだね。そんなに羽に反応するなんて」
 羽って鳥の背中に生えてるヤツだよね?でも、あんなに真っ白で綺麗なものは見たことがないよ。

 私はもう一度その羽根が見たくて、莉子の膝に飛び乗ると一生懸命に背伸びをした。
 ガラスの向こうに、さっき見た白い羽と古びた首輪と写真立てがあった。
 写真立ての中には一枚の写真。そこに写っているのは、すらりとした一匹の猫。艶々とした黒い毛並みと、金色に近い琥珀色の瞳がとても印象的だ。
 (うわあ、すごく綺麗な猫)
 私はびっくりした。私のママも相当な美猫だったが、この写真の猫はママの数倍も美しかった。
 さらに視線を動かすと、写真立ての前に置いてある首輪に、何か文字が書いてあるのが見えた。けれど、私には人間の書く文字は分からない。

 「……」
 私はじっと戸棚の中を覗いていた。
 黒猫の写真も、古びた首輪も、あの白い羽も、とても大切そうにしまってある。
 そう言えば、莉子は私がこの部屋にいる時には、一度だってこの扉を開けたことがない。それはいったい何故なんだろう。
 「ニャー」
 私は振り向いて莉子に問いかけた。
 ――この猫は誰?首輪には何て書いてあるの?白い羽といったいどういう関係があるの?
 莉子に私の言葉が通じるはずもなく、莉子は寂しそうに笑うと、私の頭を数回撫でた。
 「さ、一階に下りて、ご飯の支度をしよっか」
 莉子があんまり寂しそうに笑うから。そして、私を撫でる手があまりにも優しかったから。私はそれ以上何も聞くことができず、莉子の後について素直に階段を下りて行った。
 けれど、私の心の中にあの猫の写真と白い羽は強く焼きついて離れなかった。


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