猫目堂
夏色びいどろ@
夏色びいどろ
4th ―さよなら―
――ペコン ポコン
聞きなれない音に、仔犬のブランシュはぴくりと顔を上げる。
――ペコン ポコン
また同じ音がする。
いったい何だろうと注意深く耳を傾けて、黒い鼻をヒクヒクと動かしてみる。
――ペコン ポコン ペコン ポコン
音の出所を確かめて、全速力でダッシュしていく。その姿はまるで白い毛玉の弾丸だ。
「キャウン」
いつもブランシュのために少しだけ開いているドアの隙間から、慌てて小さな体をねじ入れる。
急いで少女の足元に寄ると、しっぽを振りながら少女の顔を見上げた。
「クゥーン。キュウウーン」
「うふふ。やっぱり来た」
少女はにっこりと笑うと、綺麗なガラスのびいどろを口に含む。
――ペコン ポコン
その不思議な音色に、ブランシュの丸い瞳はきらきらと輝きだす。
「キャンキャン」
しっぽを振りながら、少女の膝にじゃれつく。
「お前、これが好きなの?」
「アン!」
少女が尋ねると、そう一声返事をしてから、赤い舌を出してますます激しくしっぽを振った。
少女はブランシュを膝に抱き上げると、小さな頭を優しく撫でてやる。ブランシュは気持ちよさそうにじっとしている。
――ペコン ポコン
ブランシュを撫でながらびいどろを吹くと、その音に合わせてブランシュの小さな体が跳ねる。まるでダンスをしているみたいに。
「うわぁ。ブランシュ、上手上手」
少女の歓声に、ブランシュもますます嬉しそうに体を揺らす。
少女はブランシュをベッドの上におろすと、向かい合ってびいどろを鳴らす。
ブランシュはびいどろの音に合わせてピョンピョン飛び跳ねると、やがて前足を上げて立ち上がった。
「すごいすごい。ブランシュ、本当にダンスしているみたい」
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