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猫目堂
B
 少年はかすかに顔を赤くして、じろりと美人を睨みつけた。それからグレーの翼の天使を指さして、
 「て言うか、なんであんたの人形まであるんだ? 天使と一緒に悪魔がのっかってるクリスマスケーキなんて絶対おかしいよ」
 ぎゃんぎゃんと吠える少年の言葉に、表情を曇らせたのは美人ではなくカイトのほうだった。
 「だって、僕にとっては、アストだって君たちと同じくらい大切なんだ。クリスマスは大切な人に感謝の気持ちを伝える日でしょう?……だから僕は、どうしても君たちに今日ここに来てもらいたかったんだ」
 カイトの瞳が哀しそうに揺らめく。
 それを見て、少年はうっと息を詰まらせた。

 困ったように顔をしかめている少年に、ラエルが微笑いながら助け舟を出した。
 「今日はクリスマスだからね。天使も悪魔も人間も関係ない。聖なる夜をみんなで一緒にお祝いしよう」
 ラエルの言葉に、
 「そうだね。君の言うとおりだよ、ラエル」
 「ええ、まったく同感です」
 紳士も美人も笑って頷く。
 それから美人は、カイトと少年に花のように笑いかけた。
 「さあ、クリスマスの夜は今日一日だけですよ。みんなで一緒にお祝いしましょう」
 そう言われて、カイトと少年の顔にもようやく笑顔が戻った。


 
 賑やかなディナーのあとは、全員でクリスマスツリーを見に外に出た。

 「いったいどこからこんなものを持ってきたんだい?」
 もみの木を見上げながら紳士――今はすっかり青年天使の姿に戻ったアズライルが尋ねると、
 「隣の山から、今晩だけここに来てもらっているんだよ」
 ラエルがこたえた。
「今晩だけ?」
 「うん。君の友達が、この樹に頼んでくれたんだよ」
 「あの小鳥?……そうか、あいつも元気なんだね」
 少年が嬉しそうに笑う。
 「あいつも友達を誘って来ればよかったのに――って、ああ、鳥目なんだから夜は動けないか」
 そう言って、少年は笑いながらもみの木に近寄ると、ごつごつした木肌を優しく撫でた。そして、背中の翼から白い羽を一本抜き取ると、もみの木へと差し出した。
 「明日あいつに会ったら、僕から『ありがとう』って伝えてくれるかな?」
 するともみの木は「分かった」というように枝をざわざわと揺らし、その羽を大切そうに葉の間にしまいこんだ。



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あきゅろす。
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