猫目堂 F 「あれから二十年も経って、もうすっかり世代交代したというのに、いまだにあの屋敷跡から離れようとしません」 「そうなんだ」 「理由を聞いたら、『先祖にとって恩人なら、自分たちにとっても恩人だ。自分たちはこの土地を守り続ける。狸というものは、受けた恩は千年忘れないものだから』って言うんですよ。思わず笑ってしまいました」 神儺の言葉に、カイトとラエルも声を立てて笑った。 「その狸たちなら、千年過ぎてもそこに居続けそうだよね」 「ああ、そうだね、カイト。おかげで桜の木も、きっと淋しくないだろう」 そんな二人の言葉に、 「ええ、間違いありませんよ」 神儺も本当に嬉しそうに笑った。 優しい笑顔に満たされた『猫目堂』の中を、さわやかな春風が吹き抜けていった。 《おしまい》 [前へ][次へ] [戻る] |