猫目堂
B
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その家は、鬱蒼と茂る樹々に囲まれるようにして建っていた。
神儺はしげしげとその巨木群を見上げると、隣にいるラエルに声をかけた。
「まるでお化け屋敷みたいですね」
その神儺の素直な感想に、ラエルは思わず苦笑を浮かべる。
「人間の住む場所に、これだけ自然が残っているというのは素晴らしいことだね。都会ではもうこんな風景は見られないだろうから」
「そうですね」
そうこたえて、神儺は視線を家のほうへと向けた。じっと前方を見つめるその横顔が、心なしか緊張しているように見える。
「大丈夫かい?」
気遣うようにラエルが尋ねると、
「はいっ。大丈夫です」
元気な返事が返ってきた。
ラエルはほほ笑んで頷くと、神儺を促してその家の門をくぐった。
「こんにちは」
神儺が遠慮がちに声をかけて中を覗き込むと、すぐに奥から一人の老婆が姿を現した。にこにこと人懐こそうな笑顔を浮かべている。
「はい。いらっしゃいませ」
「あ、どうも。こんにちは」
神儺はぺこりと頭を下げる。それに倣うように、ラエルも軽く会釈する。
老婆はそんな二人を見て、
「おや、まあ。仲が良いこと。兄妹かね?」
そう尋ねてくる。
「あ、いえ――」
「ええ。そのようなものです」
慌てて否定しようとした神儺を、ラエルがおだやかに押しとどめた。
老婆は特に不審に感じた風もなく、相変わらずにこにこと優しげに笑っている。
「兄妹で旅行かい?こんな田舎じゃ、何もなくてつまらんだろう?」
「そんなことはありませんよ。自然がたくさんで、身も心も癒されます」
「ほお、そうかい。それはどうもありがとうよ」
ラエルの言葉に、老婆は嬉しそうに何度も頷いた。
二人が老婆に案内されて裏庭に行くと、そこには一本の桜の木があり、その下に一人の老人が佇んでいた。
「おや、ずいぶん可愛いお客さんだ」
「あ、こんにちは」
「お邪魔しています」
神儺とラエルが揃って頭を下げる。
老人は皺だらけの顔をほころばせて、二人に愛想の良い笑顔を見せた。
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