猫目堂 B □■□■□■□■□ その家は、鬱蒼と茂る樹々に囲まれるようにして建っていた。 神儺はしげしげとその巨木群を見上げると、隣にいるラエルに声をかけた。 「まるでお化け屋敷みたいですね」 その神儺の素直な感想に、ラエルは思わず苦笑を浮かべる。 「人間の住む場所に、これだけ自然が残っているというのは素晴らしいことだね。都会ではもうこんな風景は見られないだろうから」 「そうですね」 そうこたえて、神儺は視線を家のほうへと向けた。じっと前方を見つめるその横顔が、心なしか緊張しているように見える。 「大丈夫かい?」 気遣うようにラエルが尋ねると、 「はいっ。大丈夫です」 元気な返事が返ってきた。 ラエルはほほ笑んで頷くと、神儺を促してその家の門をくぐった。 「こんにちは」 神儺が遠慮がちに声をかけて中を覗き込むと、すぐに奥から一人の老婆が姿を現した。にこにこと人懐こそうな笑顔を浮かべている。 「はい。いらっしゃいませ」 「あ、どうも。こんにちは」 神儺はぺこりと頭を下げる。それに倣うように、ラエルも軽く会釈する。 老婆はそんな二人を見て、 「おや、まあ。仲が良いこと。兄妹かね?」 そう尋ねてくる。 「あ、いえ――」 「ええ。そのようなものです」 慌てて否定しようとした神儺を、ラエルがおだやかに押しとどめた。 老婆は特に不審に感じた風もなく、相変わらずにこにこと優しげに笑っている。 「兄妹で旅行かい?こんな田舎じゃ、何もなくてつまらんだろう?」 「そんなことはありませんよ。自然がたくさんで、身も心も癒されます」 「ほお、そうかい。それはどうもありがとうよ」 ラエルの言葉に、老婆は嬉しそうに何度も頷いた。 二人が老婆に案内されて裏庭に行くと、そこには一本の桜の木があり、その下に一人の老人が佇んでいた。 「おや、ずいぶん可愛いお客さんだ」 「あ、こんにちは」 「お邪魔しています」 神儺とラエルが揃って頭を下げる。 老人は皺だらけの顔をほころばせて、二人に愛想の良い笑顔を見せた。 [前へ][次へ] [戻る] |