猫目堂
約束の風A
「ほら、ティオ、起きて」
女性は少し呆れたように笑いながら、愛犬の額にそっと手を伸ばす。そして、
「――!」
女性の手が動きを止めた。
その指先がかすかに震えて、女性は耐え切れなくなってぎゅっと拳を握った。そのまま口元に持っていき嗚咽をかみ殺す。
「ティオ……」
女性の涙にかすんだ目に、冷たくなった愛犬の安らかな寝顔がぼんやりと映し出された。
「ティオ」
自分を呼ぶ声に、彼は不思議そうに顔を上げる。
するとそこには大好きな少女の笑顔があった。
「ティオ、今までよくがんばったね。……はい、プレゼント」
そう言って少女はにっこりと笑い、黄色いタンポポで編んだ花冠を彼の頭にそっとのせる。
やわらかな春のお日さまの香りが、ふうわりと彼を包み込む。
「ありがとう」
彼はそう言って、心の底から嬉しそうに笑った。
それから彼は差し出された少女の手をしっかりと握り締めると、二人は並んで歩き出した。
いつも二人で歩いた道。黄色いタンポポの咲く、緑萌える春の道を。
ゆっくりと、ゆっくりと、空に向かって。
もう二度と離れない。これからは、ずっとずっとふたり一緒だよ。
《おしまい》
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