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猫目堂
この世で一番幸福な場所
この世で一番幸福な場所

1st ―月の光のオルゴオル―




 どんなに落ち込んだときでも、とても嬉しいことがあった日も。
 一日の終わりは、そこで迎えたいと思うの。
 すごくくだらない話も、自分で処理しきれないくらいシリアスな悩みも。
 いっつも同じ、変わらないおだやかさで受け止めてくれるから。
 その場所を、私の唯一の場所にしてもいい?

 「ねえ」
 「ん?」
 「さっきから、どうして僕の顔をじろじろ見ているんだい?」
 呆れたように笑う、その顔もいつも優しいのね。
 「じろじろなんて見てない。ただ……」
 「ただ、何?」

 私を見つめる、優しくておだやかな瞳。とても綺麗。
 そんな澄んだ目で見つめられたら、まるで心の中をすべて見透かされているみたい。
 どんな言葉も、どんな想いも、あなたのその瞳の前では意味をなくしてしまう。

 「何でもなーい」
 そう言って、うつ伏せに寝転がっているあなたの肩に頭を乗せる。
 私の髪の香りと、あなたの香りがふわりと混ざり合う。
 「……変なの」
 そう言ってくすりと笑う。
 あなたは本当に優しい。あなたの周りの空気はいつもとてもおだやか。

 好きよ。
 愛しているわ。
 言葉にしてしまったら、せっかくの空気がほどけてしまうから。
 何も言わなくたってわかってくれる。
 あなたの優しさに、そう甘えさせて。

 さあ、目を閉じて。
 今日という一日を無事に終わらせて。
 いつもと変わらない、あなたのすぐ隣。私のための場所。
 ここはきっと、世界で一番幸福な場所だから。

 さあ、目を閉じて。
 おやすみなさい。また、明日。





《おしまい》

 


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あきゅろす。
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