猫目堂 G アラエルの悲痛な叫びに、しかしラエルはゆっくりと首を振る。 「残念だけれど、それは出来ないよ」 「どうしてさ?!」 「それがこの世界の決まりだからだよ。生きるということは、時に厳しくて残酷なことなんだ。それに対して、私たち天使が勝手に力を使うことは許されないのだよ」 ラエルが諭すように言うと、アラエルはがっくりと肩を落とした。 ラエルの言うことは分かる。その道理はアラエルにも理解できる。 けれど、それでも――― 「じゃあ――」 アラエルは顔を上げて、まっすぐにラエルを見つめた。 アラエルのその瞳には、何かを決心したような強い光が宿っていた。 アラエルは大きく息を吸い込むと、 「天使の力を使わなければいいんだね?」 「アラエル?」 「僕が、こいつを生かすための糧になる。それならいいでしょう、ラファエル?」 そう言うなり、アラエルは自分の翼を自らの手でもぎ取った。片方だけ残っていた何よりも大切な天使の翼を。 「アラエル!!」 カイトが驚いて叫んだ。 しかしアラエルはためらうことなく翼を背中から引き剥がすと、小鳥の傷口にそっと添わせた。 アラエルに迷いはなかった。 アラエルの翼は、まるで溶けるように小鳥の体と同化した。 傷口は一瞬で塞がり、流れていた血もすっかり消えた。小鳥は見る見るうちに元気を取り戻すと、顔を上げてアラエルを見つめた。 それから、力強く翼をはばたかせて、アラエルの手から飛び立った。 「ピーッピピィーッ」 小鳥は喜びの歌を歌いながら、アラエルの頭上をぐるぐる廻っている。抑え切れない感謝の気持ちを、アラエルに伝えようと懸命に翼を動かしているようだった。 「良かった」 アラエルはそんな小鳥の様子を見て、心の底から嬉しそうに笑った。 「お前が喜んでくれて、僕も本当に嬉しいよ」 それは紛れもないアラエルの本心からの言葉だった。 [前へ][次へ] [戻る] |