猫目堂
H
その瞬間。
アラエルの背中が金色に輝いた。そして、大きな純白の翼があらわれた。
今までよりももっとずっと大きくて立派な二枚の翼。それは真珠色の輝きさえ帯びて、アラエルを優しく包んでいる。
「――?!」
驚き立ち尽くすアラエルに、ラエルが笑いながらゆっくりと近づいた。
「良かったな、アラエル」
「うん。でも、どうして?」
呆然と聞き返すアラエルに、ラエルは花のように笑ってみせる。
「天使の翼は決してなくなったりしない。ただ、以前の君にはそれが見えなかったのだよ。天使の翼というのは、優しさと慈しみの心で出来ているから」
「優しさと慈しみの心……」
アラエルはしみじみとその言葉を呟いた。
それから、頭上で高らかに歌う小鳥を見つめると、
「ありがとう。君のおかげで、僕はそれを見つけることが出来たんだね」
アラエルはそう言って、まっすぐに左手を伸ばした。
小鳥はゆっくりと旋回しながらアラエルの腕に止まり、ひときわ美しい声でさえずった。
『生きることは楽しい』
小鳥はそう歌っているようだった。
そして、今ならアラエルにもそれが分かるような気がした。
きっともう二度とアラエルの翼が消えることはないだろう。
――生きることは楽しい。
――生きることは苦しい。
――生きることは・・・・・
《おしまい》
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