猫目堂
D
「ラエル、カイト、大変だよ!」
いきなりそう言いながら飛び込んできたアラエルに、ラエルもカイトも驚いてカウンターから身を乗り出した。
「いったいどうしたんだい?」
そう尋ねると、アラエルは両手を広げて、ラエルとカイトの目の前に差し出した。
二人がアラエルの手の中を覗きこむと、まだ生まれて間もないような雛鳥が震えながらうずくまっている。
「これは……」
「巣から落ちちゃったみたいだね」
カイトが指先で優しく雛鳥の頭を撫でると、雛鳥は黒い目をパチパチさせてカイトを見つめた。アラエルは雛鳥をゆっくりとカイトの手に渡す。
「どう?大丈夫かな?」
「倖い、どこにも怪我はないようだね」
「良かった」
「アラエル、この雛がいた近くに鳥の巣がなかったかい?」
「鳥の巣?」
「うん」
カイトが頷くと、アラエルは小さな頭を思い切り傾げた。
カイトはかすかに苦笑すると、アラエルと雛鳥と一緒に、アラエルが雛鳥を見付けた場所まで行ってみることにした。
雛が埋もれていた木を中心に、注意深く周辺の枝を見て廻る。
「あ、あった!」
アラエルが嬉々として声を上げた。しかし、やっと見つけた巣はすでにもぬけの殻で、雛の親らしい鳥はどこにも居なかった。
「どうしよう?」
不安そうに見上げてくるアラエルに、カイトはにっこりと笑うと、こともなげにこう言った。
「これも何かの縁だよ。君が、この雛の親になってあげたらどうかな?」
「えっ?そんなこと、僕に出来るかな?」
「大丈夫。君ならきっと立派にこの子を育てられるさ」
「そう、かな」
カイトに励まされて、アラエルは嬉しそうに頷くと、カイトの手からそっと雛鳥を受け取った。
雛鳥はじっとアラエルの顔を見つめると、ピイピイ鳴きながら小さな頭を摺り寄せてきた。ふわふわの羽毛が、アラエルの頬をやわらかくくすぐる。
「ほら、君のことをすっかり親だと思ってるみたいだよ」
「うん。ふふ、くすぐったいや」
アラエルは少し恥ずかしそうに、でもとても嬉しそうにほほ笑んだ。
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