猫目堂
E
「早いものだな。あれからもう一年か…」
のんびりとティーカップを傾けながら、大天使ミカエルはそうつぶやいた。その向かいには、優雅に午後のお茶を楽しんでいる青い瞳の大天使の姿がある。
ミカエルは親友の顔をちらっと見ると、
「退屈そうだね、ラファエル」
くすくすと声を立てて笑うミカエルに、ラファエルは少し大げさに驚いてみせる。
「私が?まさか。久しぶりの君との団欒を心から楽しんでいるよ」
「いや、そうではなくて…」
ミカエルは微笑って首を振る。そして、
「あれから一年、カイトは良くやってくれているみたいだね」
「ああ」
「私も安心したよ。こんな例は初めてだったからね、最初はちょっと心配だったんだ」
そう笑うミカエルに、ラファエルは一寸だけ言葉を詰まらせる。
「…君の助力には感謝している。あの時、皆なかなか承知してくれなかったからね」
ラファエルが言うと、ミカエルは呆れたように苦笑した。
「それはそうだろう。せっかく楽園に住まう権利を得たというのに、それを自ら放棄してしまうなんて。まあ、普通では理解できないね」
「…そうだね」
「すでに天使としての資格を得たものを、今さら輪廻の輪の中へ戻すことも出来ないからね。結局あんな形でカイト一人を地上に残すことになってしまって、皆もだが、正直私もかなり不安だったんだよ」
ミカエルの言葉にラファエルは返す言葉もない。
「けれど結果的には良かったということだろうね。カイトのおかげで、アズライルや神儺(かんな)なども仕事がやり易くなったようだし、私たちもより多くの情報を得られるようになったのだから」
「ああ、そうだね」
ラファエルは頷いてかすかに微笑する。
そんなラファエルに、しかしミカエルは少しだけ眉をしかめてみせる。
「でも一つだけ困ったことがあるのだよ、ラファエル」
「困ったこと?」
「うん。これは神儺はじめ『風の宮殿』の天使たちからの陳情なのだが、どうもかれらを統括する責任者が、ここのところだいぶお疲れのようなのだ。責任者がそんな様子では、みな心配で仕事に集中できないからね。私とほかの大天使たちで話し合って、その責任者には、しばらく休養をとってもらうことにした」
「……」
ラファエルは驚いてミカエルを見つめた。
そんなラファエルに対して、
「たしか君、休暇は十分残っていたろう、ラファエル?」
ミカエルはそう言うと、にっこりと花の微笑を向けたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
[前へ][次へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!