猫目堂
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とある山奥の小さなバス停の近くに、小さなお店があります。
その扉には、こんな看板が・・・
《喫茶・雑貨 猫目堂》
『あなたの探しているものがきっと見つかります。
どうぞお気軽にお入りください』
さあ、扉を開けて。
あなたも何か探しものはありませんか?
【 猫 目 堂 8th 】
― 薔薇の名前 ―
カランカランカラーン……
『猫目堂』の扉に取り付けられたドアベルが、ひときわ澄んだ音色を奏でた。
綺麗な顔をした二人の店員――カイトとラエルが、その音に思わず顔を上げると、そこには、白い髪に美しいオレンジ色の薔薇を挿した一人の老婦人が立っていた。
「お邪魔してよろしいかしら?」
老婦人はそう言ってふわりとほほ笑むと、二人に促されてカウンター席へと腰かけた。
よく見れば髪ばかりでなく老婦人の服の胸元にも、鮮やかな夕焼け色の薔薇が飾ってある。
「人と待ち合わせをしているの」
もの問いたげなカイトの視線に、老婦人はやはり笑ってそう答える。とても上品で優しい笑い方だった。
「ご注文は何になさいますか?」
ラエルが尋ねると、一寸だけ思案してから、
「ウィンナコーヒーをいただけます?…昔よく飲んだものなの」
少女のように瞳を輝かせてそう言う。
「かしこまりました」
ラエルも笑顔で頷くと、老婦人のために、とっておきのコーヒー豆を挽き始めた。香ばしい芳香がゆうらりとお店の中を漂う。
「綺麗な薔薇ですね。それに、とても良い香りがしますね」
カイトがうっとりと鼻を動かすと、老婦人はにこにこと笑った。
「この薔薇はね、昔、ある人が私にくれたものなの」
「へえ、そうなんですか」
「ええ。その人の思い出が詰まっている大切な薔薇」
「その人は、あなたにとってとても大切な方なんですね」
カイトが言うと、老婦人は少しだけ目を見開いて、それから花がほころぶように微笑した。
「ええ…ええ、とても大切な人。彼は、私の幼なじみだったのよ」
老婦人はその頃を思い出して、懐かしむように目を細めた。
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