猫目堂
C
「一体どうしたらいいんでしょう?」
お客は悲しそうに顔を歪めた。
彼の茶色い瞳が、何かにすがるように二人の店員を見つめてくる。
「カイト…」
金髪の店員がためらうように黒髪の店員の名前を呼んだ。
しかし黒髪の店員は、ただじっとお客の顔を見つめている。その琥珀色の瞳はとても落ち着いていて、口元にはかすかにほほ笑みさえ浮かんでいる。
「大丈夫ですよ」
黒髪の店員はまたそう言った。
その言葉にお客は力なく首を振ると、カウンターに両手の肘をつき、自分の頭を抱え込んだ。
「大丈夫だなんて、俺にはそうは思えない。あの子も仔犬も、このままではどちらも不幸になってしまう」
そんなお客の様子に、黒髪の店員は少しだけ眉を寄せた。小さなため息を吐き出すと、まるで諭すような口調でお客に話しかける。
「大丈夫。あの二人なら、きっと大丈夫です」
「何であなたにそんなことが言えるんだ。あなただって分かるでしょう? あの子はブラックを忘れられない。ブラックのために、仔犬を遠ざけようとしている」
「そうですね。きっとそれがブラックへの愛情の証だと彼女は思っているんでしょう」
「それなら、どう考えたって、大丈夫なわけないじゃないか。あの子にちゃんと気づかせてあげないと。今のあの子にとって、本当に大切なものが何なのかを――」
そう言って立ち上がろうとしたお客を、黒髪の店員が押しとどめる。思わず文句を言おうとしたお客に、彼はあくまでも静かに言った。
「あなたは二人を信じてあげられないのですか?」
「え――」
そう言われて、お客の顔色が変わる。
お客は戸惑ったように目をしばたたかせた。
「二人ならきっと大丈夫。あなたがそう信じてあげなかったら、本当に二人はこのまま――、何も変わらないままになってしまいますよ」
「……」
「信じてあげてください。あの二人のことを誰よりも分かっているのは、ほかの誰でもない、あなたなんだから」
「……」
「じゃあ、行ってきます」
真新しいリードを持って、少女は少しびっこをひきながら玄関を出て行く。
リードの先には、白い小さな仔犬。少女と初めて一緒に散歩に行けるのが嬉しくてたまらない様子。
しかしそれに反して、少女は浮かない顔で不自由な足をひきずって行く。
[前へ][次へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!