猫目堂 @ とある山奥の小さなバス停の近くに、小さなお店があります。 その扉には、こんな看板が・・・ 《喫茶・雑貨 猫目堂》 『あなたの探しているものがきっと見つかります。 どうぞお気軽にお入りください』 さあ、扉を開けて。 あなたも何か探しものはありませんか? ― Dear friends ― 高校生の少女が、風を切るように自転車をこいでいる。 彼女の片手には携帯電話。彼女はすっかり安心しきって、せわしなくボタンを押しながら、小さな液晶画面に見入っていた。 毎朝通い慣れた道、使い慣れた携帯。 そう。それは、いつもとまったく変わらぬ朝で、彼女の行動もいつもとまったく同じで。 だから、彼女は気付かなかった。彼女がいつも通る横断歩道の信号機が点滅をはじめ、彼女のずっと後ろのほうから、一台の車が猛スピードで迫っていたことなど。 彼女はまったく気が付いていなかったのだ。 歩行者用の信号が完全に赤に変わったことも。その車が慌てて左折しようとして、携帯電話のメールを打ちながら赤信号を渡っていた彼女に驚いて、クラクションを鳴らしながら急ブレーキを踏んだことも。 運転手が驚愕の表情でハンドルを切って、車が道路脇の植え込みに突っ込んで…。 それでも間に合わなくて、少女の体が自転車ごと宙に舞う。通行人が悲鳴を上げる。 それなのに、彼女には分からなかった。 彼女が見たのは、携帯画面の中に並んでいる文字と、突然ぐらりと歪んだ視界。ただ、それだけだった。 [次へ] [戻る] |