たくさんの人間でごったがえすスクランブル交差点。外国人が日本に来てこれを見たら、誰一人としてぶつからない事実に驚愕するんだそうだ。武器の無い戦場、とまで言われてるらしい。
俺は横断歩道の向こう側へと歩を進めながら、街を行く人達をそれとなく観察する。
俺みたいに一人で歩いてる人、友達や家族と歩く人、それに恋人や夫婦。
この中にサトリでもいない限り、俺が男に告られて悩んでる……否、告られた男をうっかり好きになってしまった事実など誰も知らない。まぁなんだ、知られたくもないが。
(そばにいてくれたら、いい……かぁ)
すぐにいいよ、とは言えなかった。いいよと言うには、俺は臆病すぎた。
小山田のそばには、どんな人間だとしっくりくるんだろうか。こうやってすれ違うだけでも、何人もかわいい子やカッコいい奴がいる。小山田にはこの先もたくさんの出会いがあるだろう。あの顔にあの性格だ、モテないわけがない。それなのに……この、俺なんだよなぁ……。
「……卑屈になってどうすんだ」
横断歩道を渡りきり、溜め息を一つ吐く。頬を軽く叩いて、気合いを入れ直した。
「なるようになれ、だな!」
思わず口からこぼれ出た言葉に、周囲にいた数名が俺をちらりと見遣って、すぐ興味を無くしたように歩いて行く。
俺が何をしようが、殆どの人はこんな風に関心を寄せないだろう。俺はちっぽけで、どうってことない普通の男だ。
(小山田なら……きっとこうやって立ち止まってたら即ナンパされてるな)
そう考えて、苦笑が漏れる。
そんな小山田のそばにいる自分はどうやったって想像できないし、あまつさえキスや……その先までやっちまえるのかは大いに疑問だが。今は考えたってしょうがないことだ。
ただ、一つハッキリしていることがある。
あの思いに応えたい。俺を好きだと、欲しいと、そばにいてくれたらと願う男の思いに、真っ正面から向き合いたい。
俺はそのまま駅に向かう人波に合流し、また、電車に乗った。