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「…レイ?」
どうしたのかと肩に埋まる金色に問いかける。
何度か呼びかけても、一向に顔を上げないレイに不審に思っていると、少し肩が濡れている事に気付いた。

「っレイ!?」

泣いているのか?
いつも自身満々で傲岸不遜な王様が、何を思ってか俺の肩に顔を埋め泣いているのだ。

一向に肩に零れる雫は止まらず、拉致も空かない現状にふぅ、と一息つくと、目で見て分かる程揺れている背中をポンポンと叩く。
幼い頃、泣いている俺に父親や母親はこうして抱き締めては優しく背中を撫でてくれた。
この歳になって親の前で泣く事もないし、抱き締められるなんて恥ずかしい事はできないが、あの温かい手を思い出し、自分がしてもらったようにレイの背中を優しく叩く。
空いた片手で柔らかい黄金にそっと指を差し込み、ゆったりと撫でる。



どれくらいそうしていたのだろう。
ゆっくりと俺の肩から顔を上げたレイの目はうっすらと赤くなっていた。
声を上げる事は無かったが泣いていた事は一目瞭然だった。
「すまない。情けない面を見せてしまった。」

力なく耳を垂れて恥ずかしそうにしている姿に不覚にも可愛いと思ってしまった。
そう言えば俺、動物大好きじゃん。
今更な事を思い出しているとレイがぎこちなく笑ってきた。
いつものあの厭味な笑顔でも、自信に満ち溢れた笑みでも、何でも無い、はにかんだ笑み。

ヤバい。可愛い!可愛い!可愛い!!
無意識に波打つ黄金の間にあるケモ耳をさわさわと弄る。
くすぐったそうにしながらも、嬉しそうに俺を見ていたレイは慈愛に充ちた表情でそっと俺の頬に触れる。

「ハジメ。私がハジメに会えた時、私はどんなに嬉しかったか。言葉では言い表せない。獣人を統べる者がどれほどの孤独を感じるか、私はこの立場になるまで知らなかった。」

柔らかい笑みが徐々に真剣な、そして辛そうな物へと変化していく。

「全てのモノの長、全てを操れる力。その両方を得られると分かった時、まだ幼かった私は誇らしくただ単純に自分は最高の幸せを得たと思った。」

どこかぼんやりと遠くを見つめながら話すレイに俺は何の事か分からず、ただ続きを促した。

「しかし、実際は王とは孤独なモノだった。常に気を張り、弱みなど見せられない。問題が起これば素早く動き解決を求められる。民に不平不満があれば、それは王の…私の勤めの甘さを指される。だがな、そんな事はまだ良かった。」

一息、軽く吐いたレイの表情は切なく、何かを堪えているようだ。

「私はこの地位について何十何百と生きてきたが、王はこの地の者とは番えなかった。それは古からの言い伝えだけではなく、この世の理だった。私の伴侶。共に生き、全てを分かち合える唯一の存在。それはこの孤独な生の唯一の望みで光だった。だが、私のその希望は時に残酷だった。いつ現れるか分からない伴侶。このまま、孤独のまま私の生は尽きるのではという恐怖。ハジメ、私がそなたを望んでからどれくらいの時が経ったか分かるか。」

レイの問いに俺は全く検討が付かず小さく首を降る。
ふっ、と苦笑を浮かべる。

「500年。全ての民の命が2巡する時を私は1人で生き続け、ひたすらハジメを待った。過去の王の事例を漁り、それでも我らの御神木、ヒモロギに祈り続ける事しか分からなかった。いつ訪れるのか、藁にも縋る想いで待ち続けたそなたに会えた時、それが何者でも私は心の底から全ての愛を注ごうと決めていた。そして、ハジメ、ついにハジメが来てくれた。」
俺の頬をゆったりと撫でながら、とても愛しい者に触れるようにレイは俺に触れている。
きっとレイの言った事は嘘じゃない。
いや、こいつは始めから嘘をついた事は一度もないのだ。
俺なんかじゃ想像もできないほど膨大な時間を民のため、この世界の為に1人で静かに孤独と戦っていたんだ。
そう思うと胸が苦しくなってきた。

「私のために泣いてくれるのか。」
そっと頬にあった手で涙を払ってくれて、ようやく俺は自分が泣いている事に気付いた。

「っちがう!」
思わず否定の言葉を漏らしてもレイは優しく微笑んだだけ。

「私の為でなくても良い。ハジメが笑い、泣き、怒る。その感情を側で見れるだけで私は仕合せなのだ。」

お前は神の子かよ!と呆れながら見上げると本当にマリア様ですかってなくらい綺麗な微笑みがあった。

「だがな、私は、己の孤独を埋める為にハジメを呼んで、ハジメに孤独を与えてしまった。私たちが番になる事はこの世の理なのだから、拒絶されることなど考えた事すらなかったのだ。」
遥かな時を重ねただけで私も間の抜けたものだ、と自嘲するレイ。

「私はただ、会えば妃も私を愛してくれると信じて疑わなかったのだ。ただ、誰かに…ハジメに私の名を呼んで欲しかっただけなのだ。」


そういうと泣きそうな、嬉しそうな複雑な表情で俺を見つめると、再び俺を強く掻き抱いてきた。


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