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桜舞う

「………久しぶりだな」

低い声にびくりと顔を上げれば十月が東屋に入ってきた

本当に久しぶりである

「うん。元気にしていた?今、庭師なんだってね。仕事、楽しい?」

久しぶり過ぎてこんな言葉しか出てこない

むしろ気まずいから知らぬふりをして通り過ぎてくれればよかったのに

「ああ、楽しい。詠は大学楽しいか?」

作業服のツナギのポケットから煙草を取り出して十月は火をつけてそれをうまそうに吸う

ぷかぷか浮かぶ煙に十月は本当に仕事が楽しいのだとわかって嫉妬のような憎らしいようなどろどろとどす黒い感情がわいてくる

「……………う、うん。楽しいよ」

ぐっと手の内を握りながら答えると十月はそうかと短く返してぷかりと煙を吐いた

「なあ、あれ俺が植えたんだよ」

急に変わった会話の内容に顔をあげると十月が僅かに微笑みながら東屋から見える白いストックの花畑を煙草で指した

「遠くから見たら綺麗だけどな、虫に食われたり病気になったり腐っていたりする。でもそれは土に生きているからしょうがないことだ」

詠が顔をあげると十月がにっと笑った



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