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小話
ガイが思春期になりました2 ルーク 前編
ガイが思春期になりましたの続きです
※ED後ルクガイのガイが外見も精神も14歳になる話


「まずは洋服を買いに行こう。それからギンジのところに行って、アルビオールに…」
ルークが玄関の扉を開ける。
その先に広がった世界に、ガイは思わず言葉を失う。
奪われた故郷を離れ、聳え立つ堅牢な山のようなバチカル王都とは違った景色がそこにあった。
さあっと乾いた風が頬を撫でる。ゆっくりと数歩歩いて、足を止める。
立ち止まったガイにルークはそれ以上言葉を続けなかった。穏やかな目でガイを見詰める。
町外れの、少し小高い丘にあるその屋敷からは、シェリダンの一望出来る。
海の傍に高く聳え立つロケット台、街の至る所で煙突から煙があがり、大小様々な歯車が回転している。
「…本当にシェリダンなんだ」
小さく零した言葉に、ルークは応える。
「ああ。えーと、この場所って渓谷から吹く風が乾いてて譜業には適しているんだろ」
「そうなんだ!譜業は精密だから湿度は好ましくない。だが、乾燥しすぎると今度は静電気を起こしやすくなるんだ。でもシェリダンは…」
ルークの言葉に目を輝かせて、いつものガイらしい情熱に満ちた説明を始めた。だが、途中でふと我に返り、言葉を切る。
まだ自分との距離を測りかねているのがわかり、ルークはそれ以上は踏み込もうとはせず
「じゃ、行こうか」と先を促した。
我を忘れて饒舌になってしまった自分が悔しいのか、ガイは小さく唇を噛んで、ルークの後ろに続く。
洋服屋に着くまで二人の間には会話はなかった。
さっきまでのトゲトゲしさはないものの、「お前には気を許さない」という踏み込ませない空気を纏っている。
うっかりと関係を吐露してしまったので、距離を置かれても仕方はない。
自分の迂闊さを呪いながらも、店で服を購入し、足早にアルビオールのある格納庫へと足を向ける。
そうすればガイの警戒心が解かれるんじゃないか、と思いながら。
事実、服を買うときは「動きやすい格好ならなんでもいい」と興味なさげだったが(とはいえ、色合いもシルエットもセンスのよいものを選んではいたが)
格納庫へ向かう道すがら、ガイは方々に熱い視線を漂わせている。
「後から観光もしような。ロケット台にもいってみたいだろ」
「……っ」
ルークの言葉に、う、と言葉を詰まらせながらも、素直にコクリとガイは頷いた。


「うわ、マジか!アルビオールないのか」
「ああ。ノエルはさっきナタリア王女を乗せて出かけたし、ギンジは旋回実験をしとるはずじゃ」
がっくりとルークは肩を落とす。
アストンはガイに視線を向けて、はて、と首をかしげる。
「で、お前さんは、もしかしてガイか?なんじゃ、ずいぶんちっこくなったのう」
アストンの言葉に、どう答えていいかわからずにいるガイは口籠る。かわりに
「俺が原因なんだ」
としょんぼりした様子でルークが応える。その隣りに立つガイは腕を組んで、ルークとは反対の方に顔を向けている。
いつもの二人らしからぬ様子に、アストンは事情を察知しそれ以上深くは尋ねなかった。
「で、中身もちっこいままなのか」
「ああ、記憶も身体も14歳の時のガイなんだ」
「フーン。じゃ、坊主、こっち来い。どうせちっこくなっても譜業には目がないんじゃろ。
ワシが直々に説明してやろう」
その言葉にぱっとガイの顔が明るく輝く。
この時ばかりはルークは音機関に感謝し、その一方でいつも通りに激しく妬心した。
大小様々な計器や、モニターや、アルビオールの模型を片手に設計図を広げての講義が始まった。
ガイは目の前に広がるそれらは、彼にとっては宝に等しいのだろう。
視線は模型に、設計図に、情熱的に注がれ、アストンの説明をひとつも聞き逃すまいと耳を傾けている。
「飛晃艇は古代の浮遊機関により、最大積載量はこれほどに耐え、速度は……」
ガイとは違いルークはアルビオールの構造に何ら興味がない。
いつもなら「また始まった」と肩をすくめて、さっさとこの場から立ち去っているところだ。
この地に身を寄せてから、我慢して付き合ってぶーたれるよりも、ルークはルークで好きな事をしているほうが建設的だとようやく悟ったのだ。
だが、今日はそうもいかない。
刺々しい視線と言葉を向けてくるガイが、頬を紅潮させ、目をキラキラ輝かせている様子は、面白くもないけれどもやはり嬉しくもある。
アルビオールに乗せてやれなかったけど、連れてきてよかった。
過去を覗きこんだとしても、14歳のガイのこんな表情は「ルーク」の前で見せることはなかったはずだ。
勝ったな、と胸の中でアッシュ相手に勝手な勝利宣しながら、嬉しさを抑えきれずに、つい口元を緩ませる。
「気持ちわりぃ」
ボソっと呟かれたガイの言葉に、ルークは真顔になりガイの腕をつかむ。
「大丈夫か。ここ、重油の匂いもするし、外にでて新鮮な空気吸ってこよう」
腕をつかまれたガイは蒼い目を大きく見開く。そしてルークの言動の意図がわかり、頬を紅潮させる。
「ば、ばっか!そういう意味じゃねえよ。お前がニヤニヤ笑って気持ち悪いって意味だ!!」
「あ、なんだ。ガイが気分悪くなったのかと思った。良かった」
ほっとしてガイの腕を離すと、「ニヤニヤ」と称された笑顔をガイに向ける。
その笑顔に居心地の悪さを感じ、ガイはぷいっと視線を逸らす。
その様子にアストンは「お前ら、なんだかんだいっても仲良いのう」とからかうと、ガイは何か反論しようと開きかけたが、結局何も言わずぎゅっと口を噤んだ。


それから二人はロケット台に足を運んだ。そこに住まう夢追い人の話にもガイは熱心に耳を傾けていた。
気づけばあっという間に時は過ぎて、空は橙に染め上げられていた。
「飯作る暇ないし、食べて帰ろう」
宿屋そばの食堂に入ると、店主が声をかけてくる。
「おうおう、どうしたその子どもは。いつもの金髪の兄ちゃんの隠し子かい」
「どうしてそうなんだよ。あいつが10歳で父親になった計算になるだろ。
えーと……ガイの親戚の子だよ」
深い説明はさけて無難な事を口にする。
「へー、美形の親戚もやっぱ美形ってわけだな。で、注文はどうする」
「いつもので」
「よっしゃ」
テーブルに向い合って座る。テーブルに肘をついて、店内をさした興味もなさそうに眺めるガイは「話しかけるなよ」というオーラを放っている。
ルークは、さてどうガイに事情を説明しようかと思案する。
まずどこから話していいのか、どこまで話せばいいのか。
考えは纏まらないが、このままではよくない。意を決してルークは口を開いた。

「え、えーと。今はND2021。で、ここはシェリダン」
頬杖ついたガイは視線をチラリと向けて、再び外す。だが無視をしているわけでも、無関心というわけでもないらしい。
ルークの次の言葉に耳をかたむけている。
「俺とガイ…えーと、10年後のガイとはあの家で一緒に暮らしている。んで、昨夜ガイが風邪気味だったんで俺が毎日飲んでいる薬があって…
それが風邪にもきくんじゃないかって俺の勝手な思い込みで、薬を10年後のガイに飲ませて。
朝になったら24歳のガイじゃなくて、14歳のガイがいたんだ」
「何もかもお前のせいかよ」
視線は相変わらずルークに向けないまま、きつく咎める。
「うん、本当にごめん。今、ナタリアに頼んで、俺の薬を処方してくれた人と連絡とっているから。
14歳のお前は、突然こんな場所に放り出された形になって不安いっぱいだろうけど、俺ができることは何でもするから」
「何でもねえ…」
皮肉そうに片方の口角をあげて冷笑する。だが、それ以上は言葉はついてこなかった。
店の喧騒の中、二人の席は沈黙が落ちていた。

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