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小話
ガイが思春期になりました2 ルーク 後編
「……ペールじいさん、何してんだ」
「あ、ペールは大丈夫。生きてる、ちゃーんと生きてるから」
生きている、の言葉にガイはあからさまに安堵する。
「じゃ、今も屋敷で働いているのに、10年後の俺はお前と呑気にこの地に身を寄せているのか」
「…ペールはマルクトのグランコクマで……ガルディオス家当主の留守を守ってる」
一瞬にしてガイは顔の色を失くした。驚きに目を見張ったまま時が止まったように、ルークを見詰める。
「お前が俺に…いや、ルークに、そして俺の父上にどんな感情を抱いているのか全部知っている」
「……はっ…、何もかもお見通し…ってわけか」
ようやく発した言葉は弱々しく、無理に作った自嘲の笑みが痛々しい。
「ガルディオスの剣は、今はお前のもとにある。父上があの剣はお前の元が一番相応し」
「当たり前だ!」
ルークの言葉を遮る語気の強さに圧される。
「うん、そうだな。ごめん」
「なんでお前が謝るんだよ」
昂った感情を持て余し苛立つガイに、ルークは微笑む。
「ん、だって、俺の言い方無神経だったなって」
「…それくらいの事でイチイチ謝ってんじゃねえよ」
再びぷいと顔をそむけられる。

……あれ、もしかしてこれって。

「へい、おまち」
ルークの思考を野太い声が遮る。
ガイの前に海鮮を中心とした定食が置かれ、次にルークに鳥料理メインのプレートが置かれた。
「……えっと、まずは食べるか」
「うん」
フォークを持つ手を止めたルークが、ガイの小鉢を指さす。
「あ、その小鉢、俺が食べようか」
「…なんで」
「それ、冷奴ってやつだろ。お前豆腐すきじゃないし」
ルークの言葉に、ガイは僅かに瞠目し、それからきっと眦を決する。
「食べる」
そう宣言すると、箸をもって真っ先にそれを口に運ぶ。
眉根を寄せ、あまり噛まずに流しこむようにして一気に平らげた。
「おお、えらいえらい。でもちゃんと噛むんだぞ」
思わず手を伸ばして頭を撫でてやる。
あれ、これなんかデジャブとルークが思った瞬間、手を跳ね除けられる。
「ガキ扱いすんな!!」
先ほどの気まずい空気を引きずったまま、ガイの機嫌をかなり損ねたようだ。
あちゃー、また失敗したな。そう思いながらも、このやりとりはルークとガイの立ち位置を変えてそれこそ幾度と無くかわされていた。
ガキ扱いするな、とむくれる自分に「悪い悪い」と口では言いながらも、にこにこ笑っていたガイの気持ちが今となってはよくわかる。
嫌いなものを懸命に食べる姿をみると、つい褒めてやりたくなる。
これからはガイから素直に褒められてやろう、と考えるルークの耳に躊躇いがちなガイの小さな声が届く。


「なぜ俺はお前を殺さず、一緒に暮らしているんだ」


その疑問に答えるならば、自分がレプリカであることから語らないといけなくなるだろう。
まっさらな俺を育てて、そしてこんな俺でも一筋の光明を見出してくれて賭けをしてくれて。
あの駆け抜けた一年もかいつまんで話さないといけなくなる、そうなれば。
ルークの脳裏にヴァンの姿が浮かぶ。
師匠。互いの信念のもと、道を違え闘った。ガイが生まれたあの島で。
「ヴァン謡将からまだ剣をならっているのか」など言って遠まわしに探りをいれてこなかったガイのことだ。
自分の素性は俺に知られているが、ヴァン師匠までそれが及んでいるのか。だが、それを問えば藪蛇になるのではと考えているはずだ。
まだ14歳なのに、と胸の奥がつきりと痛む。
「んー、愛の力とか」
ルークはぼかすための言い訳が思いつかず、結局これに尽きるんじゃないかと思った言葉を口にする。
途端、アッシュも真っ青な青筋を立てて
「アホか!!」
店の喧騒をかき消すくらいの怒号を張り上げた。
もうお前とは一切口を聞かない、というように、ガツガツと目の前の食事を平らげ始める。
また怒らせてしまった、と気落ちしながらも、朝の慇懃無礼な態度をとられるよりはましだよな、と自分に言い聞かせる。


支払いをするついでに明日の朝食の材料を買う。卵にベーコンに牛乳。
紙袋を片手で抱えて、ルークは先を歩く。
「それ、あんたが作るつもり?」
「そうだよ。俺、結構料理出来るんだぜ」
陽は既に落ちており、街を外れた丘へと続く道には街灯はない。月明かりをたよりに歩いている。
「あの『ルーク様』がお料理とはねえ」
背後から皮肉げな声が投げられる。
「そうだよ、あのルーク様が作るんだぜ。ありがたーく食べろよ」
肩越しに振り返り笑うと、ガイは不快そうな顔をする。
悪ぶった言葉や皮肉をいくらなげても、笑ってさらりと流すルークに苛立ちと、なにか形容しがたい感情が胸をしめる。
「って偉そうな事言っているけど、最初はヒデエもんだったぜ。卵ひとつ割っただけでも大騒ぎ」
ルークは再び前を向いて、話しだす。
「だってよ、黄身はまだわかる。だけど、白身!!白身って加熱しないと透明なんだな。それを知らないもんだからびっくりしてさ」
ガイは相槌すら打たない。それをわかっていても続ける。
「ガイに、これ腐ってんじゃないかって詰め寄ったりしたなあ。フライパンで焼いたら俺が知っている目玉焼きになったときは感動した。
俺は世間知らずの坊ちゃんで、目玉焼き作るのすら『あー、めんどくせー。なんでこの俺がこんなことやらなきゃならねえんだ」って不貞腐れてたけどさ。
ガイがうまーく俺をのせてくれるんだ。殻をいれずに卵を割っただけでもガイは大げさに褒めるしな」
「おい、俺がお前を褒めたみたいで気持ち悪い」
「あ、ワリイ」
悪いといいながらも、反応がかえってきたのが嬉しく、小さく笑う。
「えーと、じゃ将来のガイって言おうか」
「俺は絶対そんな風にならない」
「んー、じゃ何かいい言葉あるかな」
「……俺と別モノのガイ」
「ながっ。話すのにイチイチ言ってられない」
「だって別モンだろう。俺はお前を褒めたりしないし」
「いやあ、わかんねえよ。明日俺の朝食を食べて、『あのルーク様が…すごい』って褒めちぎるかもしれないだろ」
その時ふくらはぎに軽い衝撃をくらう。どうやら背後から蹴られたらしい。
「ガーイ、暴力反対」
「知るかっ」


他愛のない会話をして、家が見えてき始めた時。さり気なさを装ってガイが尋ねる。
「そういや…毎日、なんの薬をのんでんだよ」
「ん?あ、えーと、ちょっとこうみえても病弱なもんで。あ、もしかして心配してくれたとか?」
その時、今度は脛に衝撃を受ける。
思わずその場にへたり込むくらいに、痛い。
「馬鹿。そんなわけないだろ」
「はいはい、そうだな」
痛みの衝動をなんとかやり過ごして立ち上がる。視線の先に、月明かりでもわかるくらいに、顔を真っ赤にしたガイがいた。


やっぱり根っから優しい奴だよな


にっこり笑うと、怒ったようにプイを顔をそむける。
明日の朝食、絶対ガイを唸らせて、褒めさせてやろう。
きっと口には出さないだろうけど。


ひとまず終

ガイ編に続きます

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