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小話
ガイが思春期になりました(前編) ルクガイ
※赤毛二人生還ED後のルクガイ
ルークとガイはシェリダンで新婚生活してます



夕食準備前、ガイが何度も咳をしている事にルークは気づく。
「風邪か?」
心配している気持ちを言葉にのせないようにルークは注意をはらう。
彼は心配するのは得意だが、心配されると余計に無理して強がって見せる節がある。
そしてその傾向は、ルーク相手には益々顕著となる。だからこそルークはまるで何事もないように振舞う。
「うーん、ちょっと熱っぽいかな」
素直に今の状況を吐露したガイをみると、その効果はあったようだ。
「じゃ、俺が夕食は作るから、お前それまで寝てろよ」
その言葉にガイは眉をハの字にして「おいおい、大袈裟なヤツだな」と苦笑いする。
そんなガイにルークは言葉を畳み掛ける。
「お前さ、明日ナタリアが遊びにくるんだぜ。ナタリアの前で咳なんてしてみろ。
あのお節介女が『まあ、ガイ。あなたお風邪を召していらっしゃいますの。私が看病して差し上げますわ。
大丈夫、慰問に何度も足を運んでおりますのよ』って張り切るぞ。おかゆなんて作り出すに決まってる」
ご丁寧な声真似まで交えてのルークの言動は、ナタリアと付き合いが長い分、彼女の性格は二人ともよく理解している。
このままにしておけば、間違いなく訪れる未来であった。
お粥をどうしてここまで……というお粥の成れの果てを差し出して「さあ、ちゃんと食べないと」とずいっとレンゲを押し付けてくる様子でさえ
映像音声付きでガイの脳内に違和感なく再生された。
「わかった。じゃ、素直に甘えるよ」
「おう、まかせとけって」
バンと胸をはるルークに、ガイは少し後ろ髪を引かれたが、素直に寝室へと向かった。
扉が閉められてから、ルークは台所に一人たって、腰に手を当てて考える。
「風邪のひきはじめに適した料理ってなんだろうな」

キムラスカ子爵ルーク・フォン・ファブレと、マルクト伯爵のガイラルディア・ガラン・ガルディオスは、一緒に暮らしている間柄である。
二人で暮らすにはかなり広めの一軒家ではあるが、彼らの身分からすれば狭小なものであった。
「駆け落ちならこれくらいが丁度いいよな」とルークが即決した物件であった。
駆け落ちと言い放つわりには、住んでいる土地の名物のロケット台を背にして写真をとって、それをポストカードにして実家に送り届けるくらいのゆるゆるさではあった。
ルークの行動は何でもよいように解釈するガイは
「奥様を心配させたくないんだな」と納得していたが、ナタリアから「貴方達にお届けしたいものがございますの。お伺いしてもよろしいかしら」という手紙が届いた時
「おい、ナタリアにこの場所がバレてる!!」と顔を真っ青にして心配するルークをみて、がっくり肩を落としたものだった。
アッシュと共に生還して、外見は立派な青年となり、言動もかなり落ち着きをみせてはいるが、根本的な所はまだまだ世間知らずのお坊ちゃまなところがある。
だがそういうルークの、外見とは違う少年らしさはガイの好むところであった。
あまりに早く駆け抜けた一年がルークにはあり、あまりに長い二年を過ごしたガイであったので、ゆっくりと年を重ねていける事に安堵するのだ。
二人で暮らし始め、家事も分担、料理も分担、と言いながらも始終一緒にひっついてまわっている。
「非効率的だよな」って言いながらもルークは嬉しそうで「まったくだ」と言いつつもガイも笑う。
そんな穏やかな日々を二人は過ごしてた。


「リゾットならいいよな。ガイの好きなシーフードリゾットだ!!」
そう胸をはるルークであったが、シーフードというより、海老リゾットと銘打つのが正しい料理だった。
だが完成した料理に満足気なルークは、早速ガイを呼びに寝室へと向かった。
扉を叩くが返事はない。そっと細く扉をあけると、ガイが穏やかな寝息をたてている。
起こすのがしのびないと思ったルークは、くるりと踵を返す。
ベッドサイトの置いておこう、目が覚めたら食べるだろう。そう考えて台所に向かう足をピタリと止める。
「あ、そういや、ジェイドから何か薬もらってたよな」
音素の安定を調べるために一ヶ月に一度この家を訪れる年上の友人の顔を思い浮かべる。
彼が処方した薬なら風邪にきくだろう。そんな根拠のない事を考えて薬をとりにいく。
トレーの上にラップしたリゾットと水差し、そして薬をサイドテーブルの上に置いて、ルークは今日はゲストルームで寝ることを決めた。
額に手をあててみると、いつもよりも体温が高いように思えたからだ。
看病するまでもない。そばにはいたいが、いればガイは逆に気を張ってしまう。
ゲストルームへ歩きながら「もうちっと頼ってくれてもいいんじゃねえの。そりゃ俺は年下だけどさ」とルークはぶつぶつ不平を漏らす。
そしてふと思う。
「もし、俺がガイより年上だったら」
仮定の妄想は、退屈しのぎになる。屋敷に閉じ込められている時も彼はそうしてよく外の世界にでた自分を夢見ていた。
「年下のガイかー。なんかヘンな感じだけど、可愛いかもな。あ、待てよ、年下ならガイが俺を見上げてくるわけだ」
外見年齢は成人して、ようやく仰ぎ見る程ではなくなったが、それでもガイの身長には及ばずにいるルークにとっては楽しい夢想になる。
後片付けをして再度様子を見に行ったが、相変わらず寝入っているガイに声をかける事無く、ゲストルームのベッドに潜り込む時にも、同じように年下ガイを可愛がる妄想にルークは口元を緩ませた。

それが現実となるとは露とも知らず。
そしてそれが決して甘いものではない事も、ルークは知らなかった。



********

カーテン越しにはいる朝日がルークの瞼に突き刺さる。
「ん……ガィー」
ごろんと寝返りをうつが、そこは当然愛しい恋人がいるはずもない。
ん?と寝ぼけた頭で考え、そしてようやく昨日の事にたどり着くと、ガバっと音を立てて起き上がり、バタバタと寝室へと走る。
扉を叩くが返事はない。
まだ寝てんのか、大丈夫なのかよ。
心配になり焦る気持ちそのままに扉を乱暴にあける。寝室の大きなベッドには昨夜と同じ塊がある。だが、心なしか小さい。
身体丸めて寝ているのか?と様子を窺うために、ベッドに足早に近づくと………
「だ、誰だ、おまえっ!!!」
思わず大声で怒鳴ってしまう。
その声に、「う…」と小さく唸ると、目をこすりながら、むくりと起き上がる。
「おはよう、ペー………」
そこで言葉は途切れる。
先ほどのルークと同じように勢い良く寝台から跳ね起きると、左右をキョロキョロと見渡し、自分の衣服をペタペタと触り、それからようやくルークへと視線を上げる。
「誰だ、お前」
少年の言葉は警戒が濃く色さし、何よりも見上げてくる青い双眸は冷たい色を潜めている。
「お、おれ、は…」
ルークは言葉を失う。
そこにいるのは紛れもなくガイ、なのだろう。昨夜着替えること無く床に付いたため昼間着ていた服のまま、だが袖も裾もだらんとしている。
いつも見下ろしているはずのガイは、ルークを見上げている。問いかける声はルークの知るガイの声よりも幾分かまだ高さと幼さが滲み出ている。
ガイ、だ。
あの頃の。俺がちっせー時の。
泣いて震えるしかできなかった俺の面倒をずっとみてくれていた時の。
「お前、ガイだよな」
「俺が先に名を聞いたんだけど」
ピシャリと跳ね除けられる。
「あ、ルークだよ。えっと、信じられねえかもしれねえけど、ルーク・フォン・ファブレ」
ピクリと片眉を神経質そうにあげて、嘲笑する。
「ルーク様の名前を騙ると、旦那様から首をはねられても文句は言えないぞ。冷酷な御方だから」
旦那様、を自分の父親であるファブレ公爵をさしていることにルークは気づく。そして吐き捨てるように少年が顔を歪ませるのをみて、思い出す。
そうだった、この時期はまだ復讐心に燃えている時だった。
名前を偽ろうか、とルークが逡巡していると、少年はじっと押し黙ってルークを見詰め、それから洋服の中で泳いでいる自分の体に視線を落とす
それから、下唇を噛み締め、そして長い袖の中で隠れている手をぎゅっときつく握りしめる。
瞼を閉じ、一度だけ深呼吸をすると、少年はルークに笑顔を向ける。
「申し訳ございません。寝起きですこし混乱しておりました」
「え?」
急に調子をかえてきたガイにルークは目を丸くする。
「ルーク…様でいらっしゃられますね。私の記憶するルーク様はまだ幼いもので混乱しております。
よろしければ事情をお聞かせ願えないでしょうか」
ぺこりと頭を礼儀正しくさげるガイに、ルークは慌てて制止する。
「お、おい!その敬語とかやめろよ。それに俺に頭なんて下げんな!」
顔をあげたガイは笑って見せる。それはそれは優しげな微笑みで。だが、先ほどのガイ以上に自分を突き放しているようにルークは感じる。
「えーと、俺はルーク。で、お前はガイ…だよな。俺の記憶間違いじゃなければ……14、15歳だよな」
「14歳に先日なりました。その節はお祝いのお言葉をいただきありがたき幸せでありました」
「だから、敬語!!!」
「………確かに以前のルーク様は、敬語をやめるように仰っておいででしたが、今の状況を考えますと、私はルーク様より年下になったようです。
ならば、敬語をやめるのは無理は注文でございます」
「うわー、やめろって!!ガイからんな言葉されたら、鳥肌たっちまう」
「……ご説明を願えますか」
押し問答に付き合うつもりはないのだろう、少年は強引に話を引き戻した。
「あ、う……え、えーと」
自分でさえ事情を把握してないのに、どう説明をしたものかと困り果てるルークの耳に、玄関の扉が叩かれる音が入ってくる。
「ナタリア王女様をお連れしました」
「ナタリア!!!」「ナタリア、王女?」
二人が一斉に玄関に向かうと、騎士により扉が開かれ、夏服に身を包んだナタリアが顔を輝かせて入ってくるところであった。
「お久しぶりですわね、ルーク。そして………もしかして、あなた、ガイ、ですの?」

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