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鮫の目にも涙








「…………む…………」

「どーした、スクアーロ」



鳥の羽ばたき。

木々のざわめき。

風の唸り。

雲の流れ。



それらが全て感じることのできる丘に、ハルヒとスクアーロは来ていた。

スクアーロは、持ってきた竹刀で素振りらしき事をしたり、近くの林みたいなところを駆け回ったり………たまに竹刀で木を折ったりして、鈍った身体をとにかく動かしていた。

ハルヒはと言えば、近くの切り株が綺麗なのを確認して、そこに持ってきた淡い黄緑のハンカチを下に敷いて座っている。ハルヒの特等席だ。

ここはいつも仕事に息詰まったときの逃げ道。誰も来ない場所なので、息抜きには最適な場所だった。
ここに来てなにも思い付かなかったらそれは重症を表している。

スクアーロは長い足を軸にして、大股でこちらに歩を進める。どうやら汗を流しているみたいだったので、私の下に敷いてたハンカチを、身体を少し浮かして取り出し、それをスクアーロに手渡した。




「……もう少しマシなもんを出せねえのか」

「貸してあげてるだけ感謝しなさい」




スクアーロはぶつぶつ言いながらも、汗を拭き取る。私はそれを見たあと、バックの中から水筒をだした。

空を仰ぎながらごくり、ごくりとスクアーロの喉を通ってく水の音は、聞いていて不愉快になる音ではなかった。




「…………なあ」

「なに?」

「ハルヒもやらねえかぁ?」

「無理。………何、一人じゃ物足りない?」

「物足りねぇというか張り合いが出ねえ」

「私竹刀ない」

「これがあらぁ」




スクアーロの口角が上がる。あ、何かこれは企んでいる顔だ、と直感で気づいた。
ふとスクアーロの腕を見ると、義手である左手には、紙面では見慣れたはずだけど、実際には余程のことがない限り、見ることができないであろうスクアーロの剣があった。



「…………」



私は無言でスクアーロを見る。




「!!んだ、ちゃんと人目につかないよう隠してたんだぁ、問題ねぇ筈…………」

「…………」

「な、何だぁ?」

「…………バーカ」

「!?」

「私を殺す気か。あんたとやったって私が一瞬で負けて終わるに決まってんじゃない」




そう言うと、スクアーロは目を大きく瞬きをした。




「あ、ああ。剣はお前が持てば問題ねぇ」

「嫌だ」



私はスクアーロから目をそらした。



「私、そんなもの持てない。私じゃスクアーロに傷一つ付けられないんだろうってことぐらいすぐに分かるけど、それでも人を傷つけるようなもの持ちたくない」

「…………そうだなぁ、すまねぇ」

「…………別に」




なんかごめん、と私が小さく言うと、スクアーロは別に謝ることねぇ、と私の頭を乱暴にかき回した。
その時のスクアーロの顔は私の知らない顔だった。


…………無言が流れる。
よく…………無言が流れたときに、嫌な物じゃなかったとか、小説で書いたりしてたけど、あんなの違うと思った。

気まずい。

実際に無言が続いて、それが妙に心地いい何て思う人なんて、両手で足りるんじゃないだろうか?

スクアーロが、私の隣に腰を下ろした。
私が切り株に座っている関係か、頭一つ分ぐらいスクアーロの視線が低くなる。
………スクアーロの表情が見えにくかった。




「…………ゔおい」

「…………何?」

「お前は…………俺の事、怖ぇと思うかぁ?」

「…………分かんない」




何でか…………今、スクアーロの表情が見えないことが急激に怖くなった。
背筋に冷たいものが走る。この感情………なんと言う言葉で表せばいいのだろか。頭の中で言葉が浮かんでは消えてゆく。




「それはスクアーロが人を、殺めてることが…………ってこと?」

「まあ、そうだぁ」



スクアーロは空を仰ぐ。




「今更誰になんと言われようがこの仕事を止める気はねぇ。それをどう思われようが俺の知ったこっちゃねぇしなぁ」

「じゃあ何で私に聞くの?」

「…………こっちに来て人を殺らなくなった。そんな自分がどう写ってんのか気になるんだぁ、お前からな」




そう言うとスクアーロは私に背を向けた。もうスクアーロの銀髪しか見えない。

聞くのが怖いなら聞かなければいいのに。




「……分かんない。それは変わんないわよ」

「…………」

「だって私は、人を殺めてるスクアーロを見たことがない。そりゃ漫画では見てたけど……それは実際に見ることとは違うもの」

「…………そうだなぁ」

「何、不満?」

「いや」

「なんならもし、そんな場に居合わせるようなことになったら教えようか」

「誰がそんな場所にお前をやるか」

「そうね。例え小説の取材のためだとしても、こちらからお断りね」




私は鼻で笑った。




「…………一瞬でも心配した俺がバカだったぜぇ…………」

「…………心配したの?」

「仮にも一般人のハルヒが、んな場所に言わせるようなことになったらやべえだろぉ!…………仮にも恩人なんだしなぁ」





後ろを向いている今でも、スクアーロが長い足で胡座をかいて、その右肘を膝の辺りに置いて不貞腐れるのが、手に取ったように分かる。分かりやすい奴。
でも…………ほんの少しでも、私のことを恩人だなんて思ってくれていると知って、なんだかこしょばい気持ちになった。




「仮にも、じゃないでしょ」

「あ゙あ?」

「ねえ、スクアーロ。言葉ってちゃんと魂が宿ってるのよ」

「何だぁ、いきなり」

「ほら、『言霊』っていうじゃない。言葉は不思議な力が宿ってるって昔から信じられたくらいだし」

「?」

「ありがたく受け取っておくわ。スクアーロの『言霊』」

「なにいってんだぁ」













の目にも涙



(暗殺者にだって人を気遣う心はある。それで良いんじゃないの?)



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