玄関の靴箱の棚に小さく置いてある鍵入れに手を伸ばす。私の手の中で小さく金属音が重なる音がした。 片方は家の鍵。 片方は随分使っていなかった自転車の鍵。 それを確認して、目の前のドアノブに手を伸ばす。ドアノブは冬の気温のせいか、いつもより幾分冷たい。手を離しそうになった。 「スクアーロ。そこの棒とって」 「?なんだぁ、これは」 「竹刀」 スクアーロは玄関に立て掛けてあった、紫味の苺の実ような色の苺色の布に包まれた竹刀を取り出す。 それは私の身長からすれば、結構長いもののはずなのだがなんせあのスクアーロだ。スクアーロ自体が高いので、竹刀もちゃっちな物に見えてくる。不思議なものだ。 「お前、何でこんなもの持ってんだ?」 「…………父が道場の師範なのよ。私が一人暮らしをやる最初の時に、護身用として持ってけって五月蝿くて」 「やれんのか」 「まさか。父さんが師範だからって私は倣いに行ってなかったし、寧ろ女は守られる物ていう古くさい考えの持ち主だったから」 「そうかぁ………。ならなんで竹刀なんか」 「…………自分が安心したいだけなのよ、あのくそ親父」 なるほど。要するに親バカなのか。 スクアーロは、ハルヒが父について話すときの表情、仕草、言われようからしてその事を感じ取った。 もしかしたらハルヒのこのさばさばした性格は、父親に関係しているのかもしれない。だとしたらどんな父親なのだろうか。 「どうせ剣は持って行けないから、代わりにこれで我慢してね」 「それ使うのか?」 「嫌ならいいけど」 「使わせてもらいます」 元の位置に竹刀を戻そうとするハルヒの手を、慌てて引き留める。 剣と竹刀では色々と違いもあるし、欲を言うなら剣を持っていきたいのだが、その気持ちをグッと押さえる。 良いじゃないか、竹刀でも。 ***** 「掴まっとけぇ」 「いや、良いです」 「掴まんねえと振り落とすぞぉ!」 「大丈夫。私バランスには自信あるから」 「そう言う問題でもねぇ!!!!」 しばらくするとハルヒの家の近くで、スクアーロとハルヒが自転車に二人乗りで乗っていた。 男の方の声が人一倍大きいので、近所の人たちは大勢振り返る。 そして、ふらつきながら進んでいく二人を近所の人は遠目でほのぼのと見ていたそうだ。 「わっ…………」 「おら、言わんこっちゃねえ!」 「…………(気軽に男の腰に手ぇ回せるかッつーの!!)」 竹刀と剣、私と鮫 (私が二人乗りの挙げ句に相手の腰に手ぇ回すなんて……死んでも親に見られたくない) (なんでだぁ?) (…………鈍感) [*前へ][次へ#] |