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鮫の気遣いと嫌がらせは紙一重








ギシギシと椅子が鳴る。
その音はリズムよく立っており、一緒に聞こえるパソコンのタイピング音と良くも悪くも旋律を…………流していれば少しは目の前のデスクトップ上に記されてある仕事(小説 )も片付くのだろうか。

無駄に電力、電気代だけは正確に、毎分ごとに奪っていき、開いてあるワープロソフトは完成時の三分の一を使っているかいないか。
長時間使用による熱の発散もキチンと忘れずに行われており、目の前の使用者と言えばもうノックアウト寸前まで来ている。
虚ろになりかけた目と顔の前にかかっている髪が物凄くだらしがない。

カタカタ…………とタイピング音がリズムよく響いたと思うとそれと同様デリートキーを押す音も同様に響く。
たまに波が来たように顔を明るくし、打ち続けるときもあるが、それも直ぐに終わりを告げる。それと同時に表情も暗くなる。



このようなままではヤバい。



デスクトップの光に顔を照らされながらハルヒは思った。

原稿の進み具合は、けして遅いわけではない。始めた時期と締め切りを総合的に考えてみれば普通…………いや、調子がいい方に旗をあげる。
だが今のハルヒにとって、今までの積み上げなんてどうでもいい。
問題は未来だ。
この詰まり方は、いつもの締め切りを遅らす原稿のときと同じパターンなのだ…………。



話が進まない。



煮詰まった作家にとって、これ以上に苛立たせるものは早々現れないだろう…………。

バタンッ!!!



「ゔおおおい、ハルヒ!!!身体が鈍ってしょうg「るっせえ!!!」」



…………現れた。



そう思ったときにはもう、ハルヒは手短に、でも怒りを思いっきり込められる丸いクッションを鷲掴みにしてスクアーロの顔面を目掛けて腕を振りかぶった。

…………スクアーロも、人が集中しているときに空気を読めないほど馬鹿ではない。そう分かっていてあえて声をかけたのは、煮詰まっているハルヒに気分転換でもできればと思っての事だった。
それが気遣いではなく、ただのお節介だったと気付いたのは、見事ハルヒの投げたクッションが顔面に当たったときだった。



*****



「…………で、私があれほど仕事中に邪魔をするなっつーたのに、あんなにデカい声で不満を洩らしたのは、嫌がらせじゃなくて気分転換と思って気遣ってくれたと?」


「…………お゙う」



場所は替わってリビング。私はスクアーロをカーペットではなくフローリングの下に正座で座らせている。
私はと言えば、ハリセン持って目の前に立ち尽くす。



「…………何でてめぇはハリセンなんか」


「はい、黙ろうか」



知らねぇよ、んなこと。私だってずっと不思議に思ってたよ。担当がたまに持ってきてそのまま置いていくんだ。

そのハリセンをそのままスクアーロの震えている足に持っていく。そうするとスクアーロの肩は可愛くピクッと跳ね、上目遣いでこちらを睨んできた。
上目遣いなんてものは、男がやっても大抵不発に終わる事なんてとっくに知っている。残念ながら、今の状況じゃ私の心はピクリとも動かない。むしろ『何でやねん』と書かれているハリセンの方に、目がいってしまうぐらいだ。
涙目になっているスクアーロ。と言うかヴァリアー内にて、正座なんてする機会が勿論ないので(と言うか外国人だし)、正座は少しの時間でもかなり辛いという。
これは効果覿面だと私は心の中でニヤリと笑った。



「秋月家六ヶ条その一、家主の執筆中は静寂を心がけるべし。…………もしかしてもう忘れたとか言わないでしょうね?」


「…………(忘れてた。つーかそれ、本当にやるのか)」


「(これは忘れてたって顔…………)はあ。もうしょうがないわね」



私はその足取りで洗面所に向かう。



「?ゔおい…………」


「ほら、身体鈍ってんでしょ?さっさと準備して。出掛けるわ」


「あ、あれはただ…………」


「鈍ってんのは本当でしょ?なら行くわ。部屋の中で筋トレとかされるのは嫌だもの」



ほら、急がないと置いていくわよ。



ハルヒはそう言うと、さっさと洗面所に引っ込んでしまった。その部屋からはしばらくすると水の音が僅かに洩れだした。
ついでに、ハルヒが洗面所に引き込もったらスクアーロは絶対にハルヒが開けるまで開けないという暗黙のルールらしきものができている。ハルヒが洗面所で着替えも全て済ましているからだ。

後に残されたスクアーロは、少し頭で起こったことを整理すると、納得いたように頷いてから痺れてうまく動かない足を、ゆっくりとほどいた。そして調度目に入った剣に手を伸ばす。
何だかんだ、この剣を振るうのは三日ぶりだ。裏稼業に身を置いて今まで一度もこんなに剣を手放した事はない。いつも肩身離さずに持っていたのでこんなに期間が空くと、どんなに剣が鈍っているのか想像つかない…………。だから少しでも早く、剣を振りたかった。剣の重さを感じてたかった。

あとちょっとで手が剣に届くというところで、ハルヒから声が掛かった。




「スクアーロ、剣に手伸ばしてないよね?」


「?何故だぁ」


「あんなもん市街地に持って彷徨けるわけ無いでしょ」


「…………」



その言葉を聞き、スクアーロはあと少しで届く筈の手をゆっくり、惜しみながら引っ込めた。










の気遣いと嫌がらせは紙一重





(…………まさか本当に持っていこうと?)

(べ、別に…………そんなことしてねぇ)

(ふーん?)

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あきゅろす。
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