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しろの小説(長編倉庫)
楽しみにしてたのは

「そういや、これからどこに行くんだ?」

「は?なんだ、俺はてっきりテメーが行きたいトコロへ向かってるのかと思ってたんだが」

ふいに銀時が振り向き、どこに向かってんだ?と聞くと、土方は『それはこっちのセリフだ』といった様子で答える。

「今日はテメーに全部任せてるってのに俺が行き先決めてるわけねーだろ」

もっともな答えだが、こっちが行き先も告げてないのに一人で先々歩いて『どこ行くんだ?』は いかがなものだろうか。
土方が僅かに不満を感じていると銀時が改めて次の目的地を訊ねる。

「午後から特に予定無し〜ってこともねぇんだろ?」

「まぁ、無ぇこともねぇんだが…」

「……?あ〜、はっきりしねぇなぁ。行きたい所が無ぇならよ、アレに乗ってみてぇんだけど」

なかなか言い出そうとしない土方の態度に痺れを切らし銀時は向こうを指を差す。土方がその方向を見るとそこには遊園地の大観覧車が聳え立っていた。

「アレに乗って江戸を見下ろすのもたまには悪くねーかなってさ」




銀時にねだられるまま遊園地へと足を運んでみると、平日の遊園地は休日と違って驚くほど人が少なく、平日はこんなものなのかと物珍しさのあまり辺りを見回す。
すると、ある一ヶ所に集まる色鮮やかなものが土方の視界に入った。

「やっぱり平日は空いてんなー。……あれ?どしたの?そんなモン持って。ぷぷっ、似合わねぇ…くくくっ」

「うるせぇよ。笑ってんじゃねぇ。…ほら」

「?」

振り返ると土方が赤い風船を持って立っており、そのアンバランスさに銀時は思わず笑うが、土方にその手に持った風船を渡されきょとんとする。

「テメーにそっくりだなと思ってよ。ふわふわしてて、掴み所がなくて…」

ぶわっといきなり風が吹き、銀時はとっさに目を瞑った。突風がおさまり目を開くと誰かの風船が空高く飛んでいるのが視界に入ると同時に近くで子供の泣き声が聞こえた。あの子供の風船だろうか。

「手を離したらあの風船みてぇにテメーも手の届かないところに行っちまいそうで…」

「………」

土方はどんどんと遠ざかる風船に視線を移しながらも言葉を続け、銀時はそれをしばらく黙って聞いていたが、いきなり歩きだし泣いている子供の元に行ったかと思うと目線を合わせるようにしゃがんでグリグリと頭を撫でる。

「泣くんじゃねぇよ、コレやるから」

土方にもらった風船を差し出すと子供は泣き止み、『いいの?』といった表情を向ける。銀時が『あぁ』と応え、渡すと子供はぱぁっと笑顔になり、その様子を見た銀時は無意識にとても優しくて柔らかい表情をする。土方はそんな銀時を見ながら思った。
口では『ガキなんて嫌いだね』なんて言ってるが本当に天の邪鬼なヤツだよテメーは。

「喜んでくれるヤツの元にいた方がそいつも嬉しいだろうよ」

お礼を言い、手を振る子供に背を向けこちらへと歩きながら聞き取れるかどうかの声音で言う。

「土方、俺は…」

戻ってきた銀時が何かを言おうとした瞬間、

「銀ちゃーんっ!!」

よく聞き覚えのある声が大きく銀時の名前を叫ぶ。
声がした方を振り返ると向こうの方から神楽が銀時に向かって突進してくるぐらいの勢いで走ってきた。

「うぉっ!?」

神楽に対して直線上に銀時の前に立っていた土方はぶつかりそうになるすんでのところで避ける。見かけによらず怪力な彼女の突進をまともに受けようものならきっとただでは済まないだろう。当の本人はそんな土方の苦労はお構いなしで銀時に話し掛ける。

「こんなところで何してるアルか?」

「そーゆー神楽はなんでここにいんだよ?」

「それは乙女の秘密ネ」

神楽はそう言った後、土方を見て全てを悟ったような顔をして、今朝の出来事を口にする。

「普段朝に弱い銀ちゃんが早起きしてそわそわしてるなんておかしいと思ってたけど、マヨラーとデートだったアルか」

「ちょっっっ!!神楽ちゃん、何言ってるのかな〜?銀サン早起きもそわそわもしてないよ?してないだろ?な?」

「お互いもっと自分の気持ちに素直になった方がいいアルよ。『ケンカするほど〜』なんて言うけどケンカ別れとかしたら全く無意味ヨ」

動揺を隠せない銀時をよそに神楽が『仕方無い坊や達ね』などと言わんばかりに首を横に振る。

「とにかく、自分の気持ちに素直に、思ったことはちゃんと伝えるのが一番アル。語らずにお互いのことを知るのは長年連れ添った夫婦でも難しいネ」

そこまで言うと神楽が走って来た方向から神楽を呼んでいるらしい声が聞こえてきた。見るとどこかで見たような女の子が立っていて、『誰だっけ?』と頭を悩ませていると、神楽はその子に向かって手を振る。

「そよちゃんが待ってるから私はもう戻るアル」

呼んでる声がする方へ戻ろうと方向転換した神楽だったが、ふと、土方の方に向き直る。

「銀ちゃん泣かすようなマネしたらただじゃおかないアル。銀ちゃんには幸せでいてほしいから…今日は特別にその役をお前に譲ってやるネ」

握り締めた手で土方の腹を殴るように、だが力なくポスっと叩きながらそう言うと再び向こうを向き今度こそといった感じで走っていった。

「…ったく、余計なことばっかり言いやがって。やっぱり性格は3歳で決まるってのは本当なのかねぇ。」

嵐が過ぎ去ったことに胸を撫で下ろしつつも、とんだモンを投下していってくれたもんだなと銀時は大きな溜め息をつきながらバツが悪そうに頭をかいて土方から目を逸らした。

「ちょっと来い」

「…へ?いだだだだ!!ちょっ!?」

いきなり腕を掴みこっちが歩くスピードなんて無視してづかづかと歩きだす土方に銀時は文句を言うが歩くスピードも腕を掴む力も緩むことはなかった。

「…観覧車。乗るんだろ?」

振り返らないまま言う土方の手を銀時は振りほどけなかった。


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あきゅろす。
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