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しろの小説(長編倉庫)
喫煙席or禁煙席?

「オイオイ、なんだよコレ…」

でにぃずに着いた土方達が店内に入ると、平日とは思えないほどに席が埋め尽くされており、到底すぐには食事にありつけないであろう状態に銀時は先程の怒りも忘れて『マジでか』と思わずうなだれた。

「ちょうど昼時だからな。しょうがねぇだろ。そこの椅子にでも座って待っとけ」

土方は入り口近くにある椅子を指さしてそういうとレジ前に置いてある席待ち用の表に名前を書く。
銀時はというとその横に置いてある子供が喜びそうなおもちゃが並んでいる棚を目の前に、『神楽こーゆーの喜びそうだよな〜』と思いながら眺めていた。



「土方様。お席が明きましたのでこちらへどうぞ」

「え?ここって禁煙席じゃん。タバコ吸えねぇけど大丈夫なのか?席変えてもらった方がいいんじゃね?」

ウェイトレスの案内に付いていくと通された席を含め辺りのテーブル一通りには禁煙のマークが己の存在を主張していた。

「ここしか席が空いてねぇんだからしょうがねぇだろ。少しの間吸えねぇぐらい別になんともねーよ。気にすんな。それよりも好きなモンとっとと頼め」

「あ、あぁ。その前に俺ちょっと廁行ってくるわ」

ヘビースモーカーであるハズの土方が禁煙席に通されたことに対して文句の一つも言わねぇなんて珍しいこともあるもんだなと思いながら土方に一言掛けると銀時はレジを挟んで禁煙席側にある廁へと足を運んだ。



なかなか戻って来ない銀時を待ちながら『ポップコーンの食い過ぎで腹でも壊したか?』などと土方が考えていると、銀時はようやく席に戻ってきた。

「遅かったじゃねぇか」

「うるせぇ、糖の方だ」

「糖尿寸前の奴が店の甘味制覇たぁ、テメー、死ぬつもりか?」

「はっ、甘いモン食って死ねるなら本望だね。だが、あいにく死ぬつもりなんてさらさらねーよ」

まるで自殺行為だなと土方が嘲笑すると銀時は張り合うかのように言い返す。
続けて何か言おうとする銀時を前に『逆にマヨネーズのことでも言い出すか?』と相手の思考を読もうとする土方だったが、銀時の口から出た言葉は自分が推測したどの言葉でもなかった。

「ところでよ…受付のアレ。どうして禁煙にマルしたんだ?」




――気にするなと言われると逆に気になるよな。ま、別にアイツがいいって言ってんだし俺が気にすることでもねぇか。いっつもいっつもすーぱっぱっ吸ってケムかったし。

店に着いた時が一番のピークだったらしく、廁を出る頃には喫煙席にも1つ2つ空きが出来ていた。それを見て銀時はそんなことを思いながら席に戻ろうと再びレジの前を通った時、ふと視界に入った受付表に目をやると、土方が記名した欄の喫煙可否項目は『喫煙』でも『どちらでも可』でもなく『禁煙』にマルが付けられていた――




「…別に深い意味はねぇよ。最近禁煙しようかと思っててな。なんとなくだ」

銀時が受付の表を見たことを知り土方は一瞬驚きの色を見せるも、ソファーに体重を預け縁に腕をかける姿勢と『気にするな』という態度を崩さずにそう言うと銀時から目を逸らした。
嘘吐け。待ち合わせで俺を待ってる間、散々吸ってたくせに。今だって貧乏揺すりしながらガマンしてるくせに。…でもコイツは言いだしたら聞かねぇし、全く面倒なヤローだぜ。

「ちょっとすいませ〜ん」

銀時はメニューを開きながら短く溜め息を一つ吐くと、ウェイトレスに向かって手をヒラヒラと振り呼びつけ、宣言したとおりメニューに載っているページのデザート全部を…しかもアイスが溶けないよう、時間差で持ってくるようにオーダーを入れていく。一方ウェイトレスはというと、今まで聞いたことがないほどの量のデザートを注文するこの男の前で営業スマイルを崩さぬこと叶わず驚きに表情を引きつらせていた。

「俺はコーヒーで」

そんな様子を見ながら銀時がメニューを言い終えると土方はウェイトレスにコーヒーを注文した。

「かしこまりました。注文を繰り返させていただきます」

ウェイトレスがなんとか平静を装いながら注文内容を復唱するがその声は2人に耳には右から左へと聞き流されていった。

「いつもみてーに犬のエサ頼まねーのかよ」

「さほど腹減ってねーからよ」

銀時が『飯食わねぇのかよ?』と聞くと土方は『コーヒーだけで充分だ』と答える。

「………」

銀時は黙って土方をじっと見つめると、まだ復唱を続けるウェイトレスに声を掛けた。

「追加注文頼むわ。土方スペシャル1つ。あ、食べるのは俺じゃなくてコイツね。コーヒーは…そうだな、食後で」

土方を指差しながら注文を追加すると続けて銀時は土方に聞かれる前に言い訳をする。

「…別にテメーに気ィ使ったワケじゃねぇよ。俺一人で食べてても楽しくねぇだけだ。せっかく奢ってもらうってのに食べるのが俺一人じゃ気ィ使うだろーが。勘違いすんな」

ウェイトレスが復唱を終えて立ち去ると銀時はテーブルに肘をついて、ぷいとそっぽを向いた。

「しょーがねぇ、付き合ってやるよ」

そんな銀時を見ながら口を開いた土方だったが、その表情は『仕方ないな』といったものではなく、天の邪鬼ながらも汲んでくれた銀時の心遣いを嬉しく思い、無意識に溢れた少しだけ柔らかいものだった。




「よくあんだけ食っといて気持ち悪くならねぇもんだな」

食事を済ませ腹ごなしもかねて歩きながら土方はあの光景を思い出す。こいつはお菓子の国からの使者じゃないだろうかと一瞬そんな考えがよぎったほどだ。

「テメーの『犬のエサスペシャル』の方が大概だと思うけどな。ま〜、今回は『お互い様』ってことにしといてやるよ」

甘いものをたらふく平らげ満足した銀時は多少のことでは怒らないんじゃないだろうかと思うほど幸せそうな様子で、土方は『たまにはこういうのも悪くねぇな』と思いながら、上機嫌に自分の少し先を歩く銀時の後ろを歩いた。


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