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しろの小説(長編倉庫)
ドS王子

どうしてコイツがそんな事を知ってるのだろうか。まぁ、あの診断は医者の嘘っぱちで、実際は糖尿気味ということだけを除いて健康そのものなのだが。
映画館を後にしてからもその疑問は解けないまま、しばらく歩いているとふと銀時が何かに気付き足を止めた。

「アレ?沖田くんじゃね?」

その言葉に土方が銀時の視線の先を見ると沖田が見慣れたあのふざけたアイマスクを付けて居眠りをしていた。日当たりのいいその場所は絶好のお昼寝ポイントなのだろう。
『出来れば今日は鉢合わせたくなかったな』と思うものの、自分が休みであろうと部下のさぼりを見過ごすわけにはいかないと思い、沖田に声をかけようとしたその時、

「おや?」

銀時の声に反応したのか土方が喝を入れるよりも早く沖田がこちらに気が付き、アイマスクを外すとバンドに指を引っ掛けくるくると回しながら歩み寄ってくる。

「旦那じゃねェですかィ。こんなところで会うなんて奇遇ですねィ。誕生日おめでとうございやす。コレ最近出来た甘味処の無料券なんで使ってくだせェ」

「おぉぉぉぉ、サンキュッ。ここのスイーツずっと気になってたんだけどいつも人がいっぱいな上に、食いに行く金ねぇわで食べたことなかったんだよ〜。……アレ?なんで沖田くんも俺の誕生日知ってんの?言ったっけ?それとも取り調べにお前もいたっけか?」

開店からずっと客足が途絶えない甘味処の券なんてそうそう手に入るものではない。銀時は目を輝かせて嬉しそうにそのチケットを受け取ると、はた、と我に返りって首を傾げる。

「いやだなぁ、旦那と俺との仲じゃねェですかィ」

「どんな仲なんだよオイ。そういや『もなか』ってなんで『最中』って書くんだろうな?『さいちゅう』なのか『もなか』なのか紛らわしくね?」

「旦那、『なか』って読みしか共通点がない上に、話が逸れ過ぎて本題が迷子になってます」

「総悟、テメーまたサボってんじゃねぇっ!」

自分を完全に無視して銀時に話し掛ける沖田に土方が怒鳴りつけるように口を挟むとそこでやっと沖田はこちらを向くが、あからさまに嫌そうな顔をする。

「なんでィ、土方さんもいたんですかィ。どーりで胸クソ悪ィ幻聴がすると思ったぜィ。」

顔を見るなり吐き捨てるように言うと、続けて自分のサボり疑惑を否定した。

「人聞き悪いこと言わねーでくだせェ。見回りに出てすぐ疲れたんで少し休憩していくかとここで3〜4時間ほど休んでいただけでさァ」

今はもうすぐ昼になるかどうかといったところ…つまり始業直後からずっとここにいたということになる。

「それ限りなくサボりに近いだろーがァァァ!!…ったく、胸クソ悪ィのはこっちのセリフだ。毎度サボったり、ところかまわずバズーカぶっぱなしたり無茶苦茶しやがって。後始末させられるこっちの身にもなりやがれ!」

「嫌でィ」

「即答かいィィッ!!」

「土方さんがストレスで胃に穴を開けてくたばる為の努力なら惜しみませんが、土方さんの為に何かするなんざまっぴらごめん被りまさァ」

間髪を入れず拒否をする沖田に思わずツッこむと沖田は『やれやれ』といった様子で土方の神経を逆撫でする。

「テメー、上等だコラ。今すぐここで叩き斬ってやろうか」

「ちぇ、なんでィ」

土方が苛つきとともに刀に左手をかけ、親指でカチャリと鍔を指で弾くと沖田は頭の後ろで手を組み、『冗談も通じねェとはつまらねェ人ですねィ』と言わんばかりの態度を取って土方から少しだけ距離をとると銀時の方をちらりと見る。
そして再び土方に視線を戻すと『ふーん、そういうことですかィ』といった様子で口を開いた。


「最近、予定を繰り上げて残業までして仕事を早く片付けようと躍起になってるとは思ってましたが、今日旦那とデートする為だったとはねェ」

「おいっ!総悟っ!!」

土方は思わず怒鳴り、沖田の言葉を聞いた銀時はというと唖然としながら土方の方を見た。
…え?今なんて言った?だってコイツは『たまたま仕事休みだから』って言って…
沖田はそんな2人の反応をよそに口元に手をあて、少し考えるような素振りを見せたかと思うと土方をじっと見てその疑問を言葉にする。

「…そういえば土方さん、先日いい香りさせて帰ってきたことがありましたが…アレも旦那と何か関係があるんで?」

「…テメーには関係ねぇことだ。さっさと外回り済ませて持ち場に戻りやがれ」

普段の沖田らしからぬ表情と口調に土方は言葉に詰まりそうになるが、そう言い放つと、早くこの状態を打破したいと謀る。…が、そんな土方を無視して沖田は銀時ににっこりと笑顔を向ける。

「旦那、土方さんなんかより俺とデートしませんかィ?」

「なっ!?」

突然の沖田の提案に土方は思わず銀時に『行くんじゃねぇっ!』と言おうとしたが肝心の言葉は出てきてはくれなかった。
…コイツが俺より総悟を選んだら?それを望んでいたとしたら?もしそうだとしたら俺にコイツを引き止める権利は…
そんな不安がよぎり土方は言葉を失う。

「…あ〜」

銀時は俯むいて拳を握る土方の姿をちらりと見て少し視線を泳がせた後、困ったように頬をぽりぽりとかきながら、しかし真っすぐ沖田の方を見て返事をした。

「沖田くん、悪ぃけどこっちが先約だからさ」

「…ちぇ、旦那がそれを望んだのなら仕方ねェや」

土方は銀時が出した答えに思わず顔を上げ、沖田は『やっぱりな』といった顔をして、そう言って歩きだす。このまま立ち去るかと土方が安堵を付きかけた次の瞬間、

「あ、旦那ちょっと…」

「ん?」

耳打ちのような沖田のジェスチャーに銀時が少し屈むと沖田はその頬にキスをした。

「!?」

「今日は旦那に免じてもう屯所に戻りますが、今度は俺と付き合ってもらいやすぜィ」

沖田は自分の唇に指を当てながら銀時にそう言うと、続けて土方に宣戦布告を言い渡した。

「旦那を取られないようにせいぜい頑張ってくだせェ、土方さん」

言いたいことを言うと『それじゃあまた』と沖田は2人を背にいつもの飄々とした態度で屯所の方へと歩きだす。
そんな沖田の表情が無表情だったことに気付く者もその表情にどんな意味があるのかを知る者もいなかった。



「…いったいなんだったんだ?いつものあいつらしくねぇ冗談なんてかましてよぉ。アレぐらいの年の子は俺達大人が考えてる以上に色々悩み抱えてんだから、ちゃんと相談にのってやんなさいよ?」

「テメーはお母さんかっ。…大体あいつに悩み聞いてやるって言っても、『だったら死ね土方』って返ってくるだけだと思うけどな」

それにあいつは冗談なんて一言も言ってねぇと思うがな。
自分の頬をさすりながら言う銀時に土方は思ったことをそのまま言う。
人の気持ちには人一倍敏感なクセに自分に向けられる好意には全く気付かねぇなんて鋭いんだか鈍いんだか…。
そんなことを考えていると銀時が訝しげな視線を土方に向ける。

「そういえばよぉ、沖田くんが言ってた『いい香り』ってなんだ?」

「あ〜、そりゃきっと電車に乗った時に近くにいた女の香水か何かだろ」

「さっき沖田くんに聞かれた時もそう答えりゃよかったんじゃねぇの?」

「アイツには素直に言っても簡単に引き下がるタマじゃねぇだろ」

「…ふーん」

土方は『やっぱり聞き逃さなかったか』と心の中で溜め息を吐くと『たまたまだ』と答えたが、『なんか納得いかねぇ』といった感じで銀時は疑う姿勢を崩さなかった。

「もしかして妬いてるのか?」

銀時の様子を見て土方はまさか…と思わず表情が綻びそうになるのを抑えながら逆に問い掛けた。

「なっ!?そんなわけあるかァァァァ!!全然気になんかならないもんねっ!バカか、バカだろテメー。自惚れるのも大概にしやがれ、生クリームの海に沈めるぞコノヤロー!」

銀時はそう捲し立てると一人でずかずかと歩き出した。

「おい、ちょっと待てよ。どこに行く気だ?」

銀時がどこにに向かって歩いているのか分からない土方が心持ち早足で追い掛けながら聞くと銀時はいきなり立ち止まり振り返る。

「イライラした時は糖分とるのが一番なんだよっ。でにぃずのデザートメニュー制覇してやるから覚悟しやがれ!」

すごい剣幕で土方を指差しそう言い放つと再び苛立った足取りで歩きだした。


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あきゅろす。
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