しろの小説(短編)
【土銀】Contrary person【土誕】
ゴールデンウィーク前。
その時の俺は特に何も深く考えちゃいなかった――
「珍しい事もあるものですね。2週間近くほぼ毎日仕事が入ってるなんて雨でも降るんじゃないですか?」
「この大型連休にいったい何をそんなに頼む事があるのかねぇ?休みぐらいゆっくり家で休めよ!めんどくせーなオイ」
「何言ってるんですか。仕事が無いよりマシじゃないですか」
「また家に水と砂糖しか無い生活なんて嫌アル。せめて酢昆布は欲しいネ」
「でもそうですね、この依頼内容だったら全部を三人で動く必要はないかもしれませんね」
「じゃあ新八と神楽で頑張ってきてくれよ。俺は自宅待機しとくから」
「何言ってるアルか、『働かざるもの食うべからず』ネ」
「頑張ったところでどうせお前と定春の食費で一瞬で消えるんだろ、分かってんだよ俺ァ」
「まぁまぁ、そんなこと言っても依頼こなさなきゃ家賃はおろかその日一日の食費だって危ういんですから。…えっと、この依頼とこの依頼……あとこの依頼は二人でも平気そうですけど交代で休みます?」
「まー、だったらテキトーにやってくれや」
「じゃあ僕、この日休みますね。お通ちゃんのライブがあるんです」
「私はこの日にするアル。」
「あと休めそうなトコっていうとこの日がありますけどどうします?」
「あー……、この日は月曜だからジャンプ買いにどうせ外行かなきゃ行けねぇし、この日は確かもう一つ仕事入ってるハズだからついでに片付けてーし…、この日かな」
消去法で選んだ日付を指差し、二人に告げると俺は一つ大きな伸びをして椅子の背に体重をあずけた――
それから慌しく日にちが過ぎていき、休み当日。
昼も過ぎ、もう夕方に差し掛かろうとする頃に起きてきた俺は若干西日が差し込む部屋の中、カレンダーを見てあることに気付いた。
「今日、あいつの誕生日じゃねーか…」
とは言っても、次に会う約束もしてなければ予定を教えあう事すらしてなかった俺達が今日中に会うなんてことは限りなくゼロに近くて。
まぁ予定を聞いたところで、休みなんてあって無いような真選組のスケジュールで、どっちみち会えなかったかもしれねぇし。
「しゃあねぇか」
俺は溜息を一つ吐き、呟くとテキトーに身仕度を整え万事屋を後にした。
「らっしゃい。おや、銀さんじゃねぇか」
「よォ、親父」
行きつけの居酒屋の戸を開け暖簾をくぐると、店の主が愛想よくカウンター越しに出迎える。
「連れの兄ちゃんは後からくるのかい?」
「さぁ、今日は来ねぇんじゃねぇかな」
カウンター席へと座ると注文するよりも早く御通しと日本酒が出される。
「そうかい。張り合って飲む相手がいないと寂しいねぇ」
「寂しいって…別に俺はあいつがいなくて寂しいなんて思ったことなんざねぇよ」
ぐいとコップの酒を一気にあおり、早く注いでくれと催促する俺に親父は「はいよ」と空になったコップに酒を注ぎいれた。
「そうかねぇ。一見ケンカばっかしてるように見えるが、お互い楽しそうだと思って俺は見てたんだけどねぇ」
「別にそんなんじゃねぇっての」
御通しをつつきながら言う俺に親父は再び「そうかい」といい、それ以上は話を掘り下げるようなこともせずに、今日の肴は何にしようかとか聞いてくるものだから「じゃあ『今日のおすすめ』で」と答えた。
「あ、親父あと酒一本とコップも一つもらえる?」
思いついたかのようにいきなりそんなことを言いだした俺に、親父は首を傾げる。
「そりゃいいけど、やっぱり兄ちゃん来るのかい?」
「いや…。今日アイツの誕生日だからよォ、この場にはいねぇけど気分だけでも祝ってやってもいいかなと思ってよ」
追加で出されたもう一つのコップにも酒を注ぐ。
しばらく見つめ、頬杖をつきながら俺はコップをカチャリと当てた。
「…誕生日おめっとさん。土方。今度会った時は願いのひとつくらいは聞いてやるよ」
「そういうのは本人の前で言えよ」
「ッ!?土方!?」
振り返ると土方が店の入り口で暖簾を手で除けた態勢のままこっちを見ていた。
「おや、ちゃんと来たじゃないか。よかったな、銀さん」
「ちょ、親父やめてくんない?なんか俺がコイツに会えて嬉しいみたいな言い方やめてくんない?」
そんな抗議を気にする事もなく土方は俺の隣に腰掛け、親父は「それじゃごゆっくり」と言い、他の客の接客へとまわった。
「……オメー、仕事は」
「今日は早く切り上げられたんでな。なのに万事屋行ったら誰もいねぇしよ」
「誕生日だろうが。お前んトコの奴らは祝ってくれなかったのかよ?」
「沖田が『世間では大型連休真っ最中だってのに何でわざわざ土方さんの誕生日祝わなきゃならねェんですかィ。まぁ平日だろうがまっぴら御免ですがね。誕生日が命日に変わるってんなら喜んで祝ってやりますけどねィ』とか言い出してな。毒入りケーキ食わされそうだから断ってきた」
「そりゃお気の毒様」
「それに……俺はテメーが祝ってくれるだけで十分だ」
「な…」
「なぁ、もう一度言えよ」
「もう、一回聞いたならいいじゃねぇか」
「銀時」
「ちょ…土方っ、手ェにぎんな。お前の触り方やらしーんだよ」
「感じてんのか?」
「ばっか…そんなんじゃねー。ニヤニヤ笑ってんじゃねェよ。お前ホンットムカつく」
「素直じゃねぇな。なら…」
「!?」
「親父、『おあいそ』だ。金ココに置いとくぞ」
「ちょ、離せって。引っ張んなっ!!」
「毎度あり〜」
「なんでも言うこときくんだろ?覚悟しとけよ」
顔が熱いのはきっと酒のせいだ。そう自分に言い聞かせながら俺は手を引いて歩く土方の手をそっと握り返した。
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