ぼくはドアをくぐった。
ドアをくぐったとたん、いままで辺りを白く覆い隠していた「もや」が晴れた。ぼくは胸がいっぱいになって、いまにも泣きだしそうだった。
「ア・ハッピー・ニュー・イヤー!」
たのしげな音楽。あたたかな空間。耳に心地のよい笑い声。
それは一面白い部屋だった。正方形のかたちをしていて、まんなかにおおきな白いテーブルが置いてある。そのうえには、おいしそうないろとりどりのご馳走たちが、ところせましと並べられている。それを囲む12人、いや12匹。ぼくにははっきりと見おぼえがあった。
みんながいた。
そう。ぼくの部屋のあのカレンダーの住民たちが。
「遅かったじゃないか」と、うしろからぼくの肩をたたき、サイモンが言った。「来ないかと思ったよ」
「サイモン……」ぼくはあんまりにも気持ちが高ぶってしまい、なかなかことばにならない。
「サバンナに帰ったんじゃなかったの?」
「新年だからな。また戻ってきたんだよ」
「そうよ、みんな、あなたに会うために戻ってきたの」
懐かしい声に、はっとして振り返ると、やっぱり彼女が立っていた。
「ポーラ」とさけび、ぼくは彼女に抱き着いた。
「照れるわね」と彼女ははにかみながら言った。
「もう会えないかと思ったよ」と、ぼくは言った。すこし涙ぐんでしまい、顔が赤くなる。
「またね、って言ったでしょう」
「でももう二度と会えない気がしたんだ」
「そうね」と、すこし淋しそうにポーラは言った。「これが最後になるわ」
これが最後になるわ。
「どうして……」
「一年が終わってしまったもの。わたしたちはそのサイクルでチームを組み、毎月活動していくの。みんな役目を果たしたわ。これで9年度組の活動はおしまい。これは忘年会でもあり新年会でもあり、またお別れ会でもあるの」
「そんな」とぼくは小さく言った。くらくらする。
「最後に、みんなにやさしくしてくれた、あなたにお礼がしたかったの。みんなあなたに会いたがっていたのよ」
ぼくは部屋を見渡した。みんなおぼえている。6月のカエルくん、10月のゴンゾー。みんながぼくをほほえみながら見つめていた。「どうしても、あなたに会いたかったのよ」とポーラは言った。
ぼくはいま気がついた。彼女はもう、太った猫ほどのミニサイズではなく、一人前(一匹前)の大人の白熊のおおきさをしていた。
ポーラだけではない。部屋にいる12匹みんなが、本来の自分のサイズに戻っている。カエルくんはテーブルのうえにちいさな椅子を置き、ちょこんと座っているし、アフリカゾウのゴンゾーはさっきからすこし肩身の狭そうな顔をしている(この部屋は、12匹とひとりを収納するにはすこし狭すぎた)。どうしてだろう?
「魔法がとけたのよ」
「魔法?」
「そう。カレンダーの不思議な魔法よ。わたしたちの仕事がある12ヶ月の間は、カレンダーのサイズにあわせたからだに縮ませられたり、おおきくさせられたりするの。カエルくんはウシガエルみたいにおおきくなり、ゴンゾーは庭のタヌキの置物みたいに小さくされる」
「だから大丈夫だって言ったろ?」と、生姜クッキーをぽりぽりしながら、サイモンが言った。彼も本来のすがたに戻っている。すごい迫力だ。おおきな角が天井に向かってきりり、とそびえ立つようだ。
「ちゃんと元通りのサイズになるんだよ」
ぼくはほっとした。あんなちいさなサイズでサバンナなんかに戻れば、きっと肉食動物のおやつになってしまう。
→つづく2。
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