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小説3 (御曹子×トリマー)
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「那月、何を…」
柊が振り返ると、那月は大きな瞳で真剣にこちらを見上げている。

信じられない。
今まで何人もの男女とキスしてきたが、皆、キスは柊の愛情表現だと受け取っていた。

だいたい、どこに怒りに任せてキスする人間がいるというのか。

那月の思考回路はいったいどうなっているのだろう。


たぶん、そうとうびっくりした顔をして那月を見下ろしていたのだろう。
それをどう受け取ったのか、那月の瞳にじわりと涙が盛り上がってくる。

「ごめっ、ごめんなさい…。もっ…もう、邪魔しないからっ…怒らないで…」

那月の泣き顔はかわいい。
引き返してしゃがみこみ、大粒の涙を指で拭う。

「どうして、俺が怒っていると思ったんだ」
「って、…柊さん、ゲイじゃないでしょう?」
「それは、そうだが…」

ゲイではないのかもしれないが、男でも女でも抱ける。
男だから、女だからと区別していたら、仕事にならないのだ。

「だったらっ、怒っているとしか思えない…。ぼっ、僕っ…」

那月が肩をふるわせ、大きくため息をついた。

なんとか涙を止めようとしているのだろうが、それがまた柊の男を刺激する。

「柊さんがっ…仕事だから、僕の面倒を見てくれているって忘れてた…。帰って来て柊さんがいるとすごく嬉しくてっ…柊さんに頭を撫でられるとあったかい気持ちになって…、いい気になって甘えてた…」

ごめんなさい、と啼く那月はたまらなくかわいらしい。

流れてくる涙を、那月の顔を包み込むように伸ばした両手の親指で拭い続ける。

今まで、人の泣き顔を見て醜いとさえ思っていたのに、那月の泣き顔はとてもいい。

飽きずに眺めていると、黙っている柊が相当怒っていると勘違いしたのか、ついに那月が本格的にしゃくりあげはじめた。

「うっ…うえっ…めん…なさい。もっ、しなっ…から、柊さんの嫌な事、しない…からっ、ここ、やめなっ…でっ、柊さんじゃなきゃ、…やだっ、だめだっ、からっ」

柊さんでなければ嫌だ、駄目だと那月に言われて、いけないと思いつつも嬉しさが込み上げてくる。

この二日間、ギクシャクしていただけに、よけい嬉しいのだ。

「泣かなくていい。俺はここを辞めたりしないから」
「ほっ…んと?」

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あきゅろす。
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