小説3 (御曹子×トリマー) 20 「なんでパジャマ一枚で外に出たんだ。どれくらいあそこにいた?」 「いろいろ考えてたら、眠れなくなって…。庭に出たのは明るくなり始めたころだから、そんなに長い間じゃないと思う」 柊はあ然として那月を見た。 今の季節、明るくなり始めるのは6時前後だ。 そして、柊が目覚めたのは、7時のはずである。 だとすると、パジャマ一枚で一時間もあそこに座っていたことになる。 もし柊がいつも那月を起こす時間(8時)まで気付かなかったら、凍死、とまではいかなくても、寒さで気を失うくらいはしていただろう。 「雪の降るなかにパジャマ一枚で1時間というのは、短い間じゃないと思うがな」 「…ごめんなさい」 「怒っているわけじゃない。…何をそんなに考えていたんだ?」 「うん…」 那月が考え込むように膝を抱えなおす。 柊は再び那月の肩に湯をかけようとして、背中の傷に気が付いた。 華奢な左肩の後ろから右の腰までの、かなり大きな傷だ。 そっと指で触れると、びくっと肩を揺らす。 「ああ、済まない。嫌だったか」 那月が小さく首を横にふった。 「小さい時にした、怪我なんだ」 「そうか」 湯の中で、那月の体がうっすらピンク色に染まり始めた。 本人は気付いていないようだが、ひどく扇情的だ。 柊の鼓動が早くなる。 これ以上一緒にいたら、またキスしてしまいそうだ。 今でさえ手で触れるとビクッとするくらい嫌がられているのに、もっと嫌われてしまうだろう。 それは、柊の望むところではない。 立ち上がり、バスルームのドアを開けた。 「着替えを用意してくる。もう少し温まっているといい」 背中越しにそう言うと、 「柊さん」 那月に呼び止められた。 「なんだ」 「どうして僕にキスしたの?」 思わず、立ち止まってしまった。 「僕が、何もできないくせに柊さんにまとわりついて、邪魔ばかりするから、それで怒ってキスしたの?」 [*前へ][次へ#] [戻る] |