小説3 (御曹子×トリマー)
19
二人の間のギクシャクした空気にイライラする。
どうやったらまた元のような穏やかな空気にもどるだろう。
どうすればまた、那月は自分に甘えてくれるのだろう。
翌朝、柊は窓の外がやけに明るくて目を覚ました。
(雪が降ったのか)
那月が起き出す前に部屋を暖めておこうと、ベッドから出てカーテンを開ける。
白い大きな雪がふわりふわりと空から落ちてくる。
都心では珍しい雪も、この東京の外れではよくあることらしい。
柊がここへ来てから、二度目の雪だ。
何気なく庭を見下ろして、ぎょっとした。
庭の中央に植えてある小さな梅の木。
それと向かい合うようにして膝を抱えて座り込んでいるのは、どう見ても那月だ。
パジャマ一枚の姿で、どれくらいそこに居たのか、頭にも肩にも雪が積もっている。
「なつきっ」
慌てて玄関を出て声をかけると、那月がゆっくりと柊をふり返った。
顔が真っ白だ。
唇にも血の気がない。
「この馬鹿、なにをしている」
雪を払って両腕で抱き上げる。
那月の体は驚くほど自然に、柊の腕に馴染んできた。
冷たい那月の体をパジャマのまま、ぬるま湯になっている浴槽の中に入れた。
熱い湯を少しづつ足して、だんだん湯温をあげてゆく。
「もういいだろう。パジャマを脱いでしまえ。気持ち悪いだろう」
「うん」
うなずいて、一生懸命ボタンを外そうとしているのだが、うまく外れない。
冷え切っているところを暖めたので、指先が痛んで思うように動かないのだろう。
脱がせてやろうと手を伸ばすと、那月が肩をふるわせた。
「ボタンを外すだけだ」
言い聞かせると、うんと頷いて柊の顔を見上げてくる。
「どうした。俺の顔に何かついているか?」
「…、あの、面倒かけて、ごめんなさい」
「別に、面倒だとは思っていない」
那月の脱いだパジャマを浴槽の外に出し、また熱い湯を足しながらかき混ぜる。
那月が浴槽の中で膝を抱えた。
肩が出ているので、手で湯を掬って肩にかける。
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