小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結 35 紫陽が主夜から離れようとしているのか、少し身じろぎをした。 だが、主夜は紫陽に触れているのが楽しいのだ。 離れないように、腕に力を入れて引き寄せる。 「あの」 紫陽が体を離すのをあきらめて、そのまま主夜の顔を見上げた。 大きな瞳が不安そうに揺らめいている。 「どうした?」 「ぼくのこと、気味悪くないですか?」 「なに?」 思いもかけない質問に、驚く。 「あの…。他者を癒せる僕が、不気味じゃないですか?癒せるんだから、殺すこともできるだろうと思いませんか?」 桃子が、紫陽の癒しの力が現れたとたん、陰陽の連中の態度が変わったと言っていたのを思い出す。 主夜の指が、きゅっと紫陽の鼻をつまんだ。 「わぷっ」 「馬鹿め、不気味だと思ったら、こんなふうに抱いているものか」 「はい…」 「紫陽、仮にお前に癒しの力とともに、命を奪う力があったとしても、それがどうして不気味なことなんだ。考えてもみろ、神界にも鬼界にも、気の力を武器として戦い、相手の命を奪うものはたくさんいる。むしろ、そういう者だらけだ」 紫陽が苦しそうに口で息をし始めたので、鼻をつまんでいた指をそっと離す。 「陰陽の連中がお前に何を言ったのかは知らんが、あの連中もまた、気の力で他者の命を奪うことくらいたやすくできるはずだ。だから、何を言われても、お前が傷つく必要はない。わかるか?」 大きな瞳がかげりを消して、明るく輝いた。 紫陽が嬉しそうにすると、主夜まで嬉しくなる。 「よし、では続きをやろうか」 「はい!」 少し名残惜しく思いながら紫陽を腕から離そうとしたとき、ふとあることを思い出した。 以前付き合っていた鬼女たちに、 「術の気の流れを教えて」 とせがまれて、自分の気を相手の体に流してやった事があるのだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |