小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結 34 あと半年たって紫陽が18歳になったら、この陰陽寮を出て行くことになる。 そのときまでに玉が目覚めず、宿り手が現れなかったら、神界から認められていない紫陽には住むところが無いはずだ。 そうしたら、もう一度紫陽を説得し、戸隠に連れて帰ってしまおうと主夜は考えていた。 あと半年玉が目覚めなければ、紫陽とずっと一緒にいる口実ができる。 そんなふうに考えている自分を、なぜか主夜は当たり前のように受け止めていた。 「そうじゃない、紫陽。力を込めるのと、気を集めるのとは違う」 主夜がぼんやりと考え事をしている間、テーブルの上の紙切れを動かそうとしていた紫陽の顔が赤くなるのを見て、声をかけた。 紫陽ががっかりしたように主夜を見る。 「やっぱり、ぼくには出来ないんでしょうか…」 主夜が驚いたことに、紫陽は紙切れを気の力で飛ばすような、神や鬼の子なら三歳児でもできるようなことが、できなかった。 「そんなことはない。そのうちできるようになる。焦らなくていい」 「でも…」 紫陽の瞳にじわりと涙がたまるのを見て、主夜は慌てて紫陽を腕の中に入れた。 紫陽を泣かせれば麻に怒られるのはもちろんだが、何より紫陽の涙は主夜の心臓の奥あたりを苦しくさせるのだ。 「ぼくの術の覚えが悪いと、主夜さまは戸隠へ帰ってしまって、他の鬼のかたが来るって…」 主夜さまじゃなきゃ、嫌なのに…。 そう言われて、主夜は大満足だ。 思わず口元がほころんだ。 「そんなことを言うのは、陰陽の連中だろう。あそこにはそういう決まりがあるらしいからな。だが、お前は陰陽の連中とは立場が違う。俺はお前を放り出して帰る様なことはしないから、連中の言うことなど本気にするな」 柔らかい髪を撫でながらゆっくり言い聞かせると、紫陽はこくりと頷く。 それがとてもかわいくて、紫陽の髪を撫でる手が止められない。 小動物の仔を抱いてかわいいと思うのとはまた違う、もっと胸の奥から込み上げてくるような、思いだ。 「お前には癒しの力があるのだろう?桃子、お前の母親がそう言っていた。他者の傷や病を自分の体に引き受けるのだそうだな」 腕の中の紫陽の体が、びくっと硬くなる。 なぜ硬くなったのか解らなかったが、慰めるように、背中をさすった。 「それには、気の力を使うだろう?」 「はい」 「それだけの気の力があるのだから、紙切れくらい飛ばせないわけがない。ようは気の流れの使い方だ。コツさえつかめば、あっという間に上達していくはずだ」 [*前へ][次へ#] [戻る] |