小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結
33
その夜、書庫で本を開いていた主夜のもとに、黎がふらりとやってきた。
「一杯やらない?」
「…珍しいな、こんなに遅くに。星と喧嘩でもしたのか?」
「まさか。僕たちはラブラブだもの、喧嘩なんかしないよ。ちょっとしたお祝いの気持ちを表しにきたんだよ」
「祝い?何の?」
「君の、紫陽ちゃんに対する思い。500年間生きてきて、初めての感情でしょ。おめでとう、主夜」
ビンからブランデーを注ぎ分け、黎が乾杯、とグラスを合わせる。
「紫陽に対する、俺の感情?」
首を傾げる主夜に、黎の目が見開かれる。
「君…、わざと目をそらしているの?それとも、本当に気付いてない?」
「何のことだ。はっきり言え」
「うーん…。気付いてないのか…」
「何を」
「あのさ、紫陽ちゃんをかわいいと思ったり、守りたいと思ったりするでしょ」
「それはそうだ。紫陽は幼く、小さい。自分より幼く小さいものをかわいいと思ったり、守りたいと思うのは当たり前の感情だろう。そのことが祝いの対象になるのか?お前、変わっているな」
「いやいや、変わってるのは僕じゃなく、主夜だと思う。…まあいいや、なにか困ったことがあったら、いつでも相談に乗るよ。じゃ、お休み」
黎はせっかくのブランデーに口を付けず、書庫を出て行った。
後に残された主夜は、グラスに口を付け眉をしかめる。
黎が何をしに来たのかまるで解らない。
今まで、黎にトラブルを持ち込まれたことはあっても、相談したことはない。
これから先も、黎に相談するような事は、起こりそうもないような気がした。
〜〜〜〜〜〜〜
〈ここへ来て、2週間か〉
主夜は、机の上に乗っている紙切れを動かそうとしている紫陽の横顔を眺めながら、ぼんやりと考えた。
紫陽にものを教えることは、思いのほか楽しくて、二週間があっという間だったような気がする。
物心ついてから会ったことのない母親の友だということもあるのか、紫陽は主夜に肉親のような親近感を覚えるらしく、甘え、頼ってくれるようになった。
主夜もそれが嬉しくて、この頃では何をするのにも紫陽のことが最優先だ。
麻は紫陽をこの家で暮らさせようと躍起になっているが、紫陽にはなにか考えがあるのか、頑として首を縦にふらない。
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