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Slaughter Game(外村駒也)
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「……この部屋は」
「ああ、ここならついさっき空いているのを見つけたんです。色々な物資が置いてあったので、助かりましたよ」
「物資、って言うのは……」
「これのことですよ」
 ポールはそう言って、拳銃と弾丸を取り出した。
「これはコルトM1911A1ガバメントと呼ばれる拳銃です」
「日本では通称、ガバ、って呼ばれてます。もちろんマニアの間だけですがね」
「なかなか詳しいですね。その通りです。今はあまり使われていませんが、昔は最前線で使われてきた拳銃です。ただ、シングルアクションだということもあって、最近は引退気味ですけれどね。それと、ガバという呼び名は外国では通じませんよ」
 そう言って、ポールはまた、にやりと笑った。
「とにかく、ガバメントは慣れさえすれば使いやすい。軽くて小さいですし、回転式とは違って弾丸の装填の手間が省けます。そして何より、ここで大量の弾丸が手に入ったことが大きいです。ざっと、200発はあります。」
「でも、自動拳銃ならトカレフの方が、殺傷能力が高いですから、その点で不利じゃありませんか」
「トカレフは暴発の危険がある。それが無い分、ガバメントは安心できます」
 確かに、トカレフTT-33には安全装置がついていない。過去にマキオが間違って、トカレフを暴発させてしまった瞬間を見ているユウタは、ポールの言い分も理解できた。
「ところで、ユウタ君はなぜ選ばれたのですか」
 ポールが突然、ユウタに質問した。
「……どういう意味ですか」
「つまり、何故ここにいるか、ということです。思い当たる節はありませんか」
「昨日、夜遅くに友人と一緒にいたところを、何者かに襲われたんです。気が付いたら部屋に半ば閉じ込められていました」
 と、ユウタは答えた。実際には、本間に襲われたところを、更に誰かに襲われたのだが、話がややこしくなるので省いたのである。
「だいぶ事情が違いますね。私も誰かに襲われましたが、ある人間を尾行していたときでした」
「……尾行、ですか」
「私がFBIを辞める原因となった人を尾行していたのです。ところが、彼がふっと視界から消えた次の瞬間には、私は銃の台尻で叩きのめされていました」
 と、ポールは自嘲気味に言った。
「それで、尾行相手がどうなったかはわからないんですね」
「いえ、私の予想だと、彼もここにいる筈です。これは、なんとなく私の勘ですけれどね」
 果たして、勘だけで判るものなのだろうか、とユウタは思ったが、口には出さなかった。
(ポールは、もしかしたらこのゲームについて何か知っているかもしれない。きっと勘ではなく、しっかりした理由を以って、仇がいることを知っているんだろう)
「……あの、さっきまで銃撃戦があったと思うんですけど」
「銃撃戦ですか。私が一方的に撃っていただけですね」
「……何故ですか。相手を殺しかねないんですよ、少しでも手元が狂ったら。怖くはないんですか」
「FBIにいた頃に慣れました。今は、引き金を引くことに躊躇はしません。それに、ガバメントは使い慣れるかどうかに懸かっている、と言ったでしょう。私は、FBIでガバメントを使っていた時期があります」
「じゃあ、相手の人を怪我させてはいないんですね」
 と、ユウタは念を押して聞いた。
「もちろんです。威嚇射撃でしかありませんよ」
「何で威嚇する必要があったんですか」
「彼らがある部屋に忍び込もうとしていたからですよ。忍び込むと言うよりは、中の人を殺すのが目的でしたね。それを防ぐ為です」
 と、ポールは答えた。
 もっともらしい理由ではあったが、それでもユウタのポールに対する不信感は拭い切れなかった。
「……ユウタ君、いいですか。あなたはこのゲームに対して、何か誤解をしているようです」
「言っている意味が解らないですが……」
「あなたが私を疑うのは自由です。少なくとも私には、ユウタ君の目が猜疑心でいっぱいのように見えます。ですが、このゲームはそもそも全員が敵なのです。だから、疑って当然ですし……」
「言いたいことはそれですか」
「違います。早い話が、人を傷付けないでいられるゲームではないのです。そういった良心は棄ててしまわないと、後悔しかねませんよ」
「つまり、俺が今、あなたを殺してもいいんですね」
 ユウタはそう言うと、S&Wの銃口をポールに向けた。マグナム弾は、6発全て装弾されている。
「……随分と大胆な行動に出ますね、ユウタ君。でも、私を殺す心算はないでしょうし、その度胸はまだあなたには無い。逆に、こうしたらどうしますか」
 ポールは、ユウタの手を掴むと、自分のこめかみにS&Wの銃口を当て、同時にガバメントの銃口をユウタのこめかみに当てた。
「どうしましたか。早く撃たないと、私が先に撃ってしまいますよ」
 と、ポールは笑って言い、双方の拳銃を下ろした。
「まだ決心が出来ないのは、仕方ないかも知れません。ですが、その内に決断を迫られる局面が出てくると思います。その時までに、考えをまとめた方がいいでしょう」
「……俺にそれを求めるのは、少し酷でしょ。友人と撃ち合え、となったら、俺は撃てないと思いますよ」
「でも、撃つ機会があるかも知れません。相手はその気かも判らないんですよ」
 ポールの言葉には、残酷な響きが含まれていた。ユウタにとって、それは受け入れ難い事実であった。しかし、それも呑みこむしかないことは、初めから判っていたことだった。
「……それで、あなたはこれからどうしますか。私も一応敵ですが、5人は助かるゲームです。一緒に行動しても構わないと思います」
「……今はまだ決められないです」
「そうですか。離れたくなったら、勝手に去っていいですよ。私の背中に弾丸の置き土産を残しても文句は言いません。今はとにかく、出口を探しに動くべきでしょうね」
 ポールの言葉に、ユウタは肯定も否定もせず、ただ彼の後に付いて部屋を出た。


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あきゅろす。
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