Slaughter Game(外村駒也) ページ:1 ユウタは、暗い廊下を恐る恐る歩いていた。ついさっき、どこか遠い所で、銃声と誰かの悲鳴を聞いたばかりである。自分は今、この殺人ゲームの真っ只中に身を置いているのだと思うと、足の震えはどうしても止まらなかった。まるで死に直面したクリスチャンが十字架を持つように、手にはS&W-M19を強く握り締めていた。 ユウタが部屋を出てから、15分ほど経過していたが、廊下はずっと同じ所を旋廻しているかのように変わりがなく、扉にあたることもなかった。 パン、パン。突然、ユウタのいる所から、さほど離れていない地点で、2発の銃声が鳴り響いた。目の前にある分かれ道の右の方だと、ユウタは直感的に覚った。 誰かの声が聞こえたと思うと、再び一発、銃声が響いた。 「……ヤバイっすよ、タツヤさん」 その声に、ユウタは聞き覚えがあった。 (……まさか、マキオ。マキオもいるのか) ユウタは反射的に、マキオの名前を呼ぼうとした。ユウタは彼が危機的状況に置かれているのだと思ったのだ。だが、彼が声をあげる前に、もう一人の男の声を聞いた。 「……仕方ねえ、フケるか」 そう、その声は紛れもなく、本間タツヤのものだった。 (本間もいるのかよ。これじゃあ、マキオに声もかけられない) と、ユウタは思った。 マキオはユウタにとって、小学校以来の親しい友人の一人ではあるが、中学に上がったときから不良らと交わり、今では一端の暴走族となっている。もちろん、それでも2人の仲は良かったのだが、間に暴走族の仲間が絡むと、どうしても声を交わすことが出来ないでいたのだ。 そうこう思っている内に、マキオと本間がどこか遠い方へと逃げていく足音が聞こえた。 ユウタは、銃が撃たれた方へと足を進めた。頭の中では、危険なことだと解っていたが、それでもこの殺人ゲームに参加している以上は、どういった人間が他にいるのかを知っておく必要があると思ったのである。 彼は、角に到ると、そっと廊下の様子を覗き見た。誰もいない。ユウタは不審に思い、S&Wを握る手にも力が入った。 「Hey! What are you doing here.」 不意にユウタは後ろから声をかけられた。咄嗟に後ろへ銃を向け、応戦しようかと思ったが、それよりも早く銃を頭に突きつけられた。 「Freeze now! You must NOT move, or I’ll fire the gun at you. Put the handgun on the floor.」 英語で捲くし立てられ、ユウタは一瞬戸惑ったが、動いてはならないことと、銃を床に置け、と言われたことを辛うじて聞き取った。 彼はそっと銃を置くと、両手を挙げ、片言ながら英語で事情を説明しようとした。 「…Well, please don’t shoot me. I don’t want to…I was not going to hurt you. This gun is for…defending myself.」 「……ツマリ、人ヲ殺ス心算デハナカッタ、トイウコトデスネ」 今度は急に日本語で話しかけられ、ユウタは混乱した。 「……日本ノ方ジャアリマセンデシタカ」 「いえ、確かに日本人です」 「ソレデ、私ヲ傷付ケル意思ハナカッタトイウ意味デ捉エテヨロシイデスカ」 「もちろんです」 「……判リマシタ。後ロヲ向イテモイイデスヨ」 ユウタは、恐る恐る後ろを振り向いた。優しそうな言葉で話しかけられても、後ろを向いた瞬間に頭を吹っ飛ばされるのではないか、という考えが過ぎったからである。 そこに立っていたのは、30歳ぐらいの若い外国人だった。 「……あの、あなたは一体」 「アア、私デスカ。私ハ、Paul James McCarthyト言イマス。アナタノ名前ハ何デスカ」 「俺は、神井ユウタ、って言います」 「オォ、ユウタ君デスカ。私ノコト、ポール、ッテ呼ンデ下サイ。ヨロシクオ願イシマース」 いきなりの自己紹介に、ユウタは目をぱちくりさせた。欧米人というのは、一体どこまでフレンドリーなのか。 「あの、一体どういう人ですか」 「私ですか。日本の大学で、英語教授をやっています。厳密には英語と心理学ですが。何しろ私は、FBIに勤めていたこともありましてね」 ポールはいきなり流暢な日本語でユウタに話しかけた。さっきまでの片言はどこへ行ったのだろうか。 「……日本語、上手ですね」 「それは、当然です。FBIでは、色々な国の言葉を話せることが求められましてね」 「何で片言だったんですか」 「その方が、アメリカ人っぽいでしょう」 と、ポールは言うと、にやりと笑った。 「まあ、聞きたいことは色々あるでしょう。私もユウタ君に聞きたいことが山ほどあります。ですが、ここは少し危険です。場所を移しましょう」 ポールはそう言って、いまだ戸惑いを隠せないユウタを、半ば引っ張るようにして、近くの部屋に入った。 [次へ#] [戻る] |